九百二十四話 筋肉聖女パンチ
敗北、死。
それらの感情が黒色グレータースケルトンを襲っていた。
フローレンスが闇の属性に対して嫌な感覚を感じる様に、闇属性のモンスターであるグレータースケルトンからしても、筋肉聖女になったフローレンスという存在は対峙するだけで、骨が焼けるような幻痛を感じる。
グレータースケルトンは闇竜デネブから闇の力を授かったが、忠誠心を抱いている訳ではない。
黒色リザードマンの様に、強者との戦いに喜びを感じるタイプではない。
ただ……単純に生物としての本能が、このまま殺されてやるかと、叫んでいた。
フローレンスのショルダータックルは全身に衝撃が走った。
胸骨辺りはヒビが入り、加速ありのタックルであれば、衝撃が魔石まで届いていたかもしれない。
そうなれば、黒色グレータースケルトンの敗北は決まっていたようなものだった。
「……ッ!!!!!!!!!」
派手に吹き飛ばされたものの、黒色グレータースケルトンは全力で堪え、ロングソードを離さず……後方に押されながらも突きを放った。
ただの突きではない。
まだフローレンスから食らったショルダータックルの衝撃を殺せておらず、後ろに押されながらも、黒色グレータースケルトンは美しさすら感じさせる突きを放った。
放たれた刺突……闇の一閃は洞窟を十メートル以上突き破る貫通力を有しており、その動作の美しさも相まって、普段のフローレンスであれば反応が遅れ、大きく体勢を崩したか……最悪、体の一部が抉れていてもおかしくなかった。
(予想していなければ、本当に、危なかったですね)
全力で地を蹴り、全力で筋肉聖女パンチを叩き込もうとしていたフローレンスだが、万が一……黒色グレータースケルトンがあの状態が動けるのであれば、闇の斬撃波か刺突が飛んでくると予想していた。
それもあり、途中で拳を振り……一回転しながら、なんとか……本当になんとか、回避することに成功した。
美しい金色の長髪の一部が抉り取られるも、戦場に立つ者として、そんな事に四の五の言ってられない。
「破ァアアアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」
一回転させた勢いを緩めず、全力で……渾身の一撃を黒色グレータースケルトンに叩きこんだ。
体勢が不十分ということもあり、フローレンスの力が全て乗ったとは言い難かった。
それでも、一回転させた勢いを殺さなかったことで……聖光の拳は強敵の骨を捉え、粉砕。
聖光の拳はそのまま深く深くめり込み、黒色グレータースケルトンの魔石も砕いた。
「はぁ、はぁ………………恐ろしい、方でしたね」
生前、どういった者だったのか気になった。
しかし、フローレンスはネクロマンサーではない。
調べるマジックアイテムも持っておらず、気になるからといって、死者を冒涜するような真似も出来ない。
(あの最後の突き……受けていれば、聖光雄化を使用した状態であっても、防御は不可能だったでしょう)
フローレンスの得物は細剣であり、防御には全くの不向き。
となれば、両腕をクロスしてガードするしか防御手段はないのだが……仮に先程黒色グレータースケルトンが放った闇の一閃をガードしようものなら、両腕事貫かれた可能性が非常に高い。
フローレンスの聖光雄化は聖光の使用、身体能力の大幅強化などの効果があるが、ガルーレのペイル・サーベルスの様に痛覚を麻痺させる効果はない。
アドレナリンの影響で多少のダメージであればまだしも、両腕を貫くような大ダメージを食らえば、さすがのフローレンスも失速してしまう。
(…………闇竜。本当にここで、私たちが遭遇出来て良かったですね)
ただのグレータースケルトンであれば、通常状態であればまだしも、聖光雄化を使用すれば基本的に優位に戦況を進められる。
闇竜デネブから闇の力を授かった状態であっても、勝率はフローレンスの方が上回っている。
ただ、今回ウィリアス抜きとはいえ、ここまで討伐までに時間が掛かったのは、黒色グレータースケルトンが有するロングソードと盾が拾い物ではなく、しっかりと品質管理がされた逸品だったのが大きな理由だった。
(他種族のモンスターに力を与え、全体的に強化を施し、人型のモンスターには専用の武器まで与える…………不幸中の幸いとは、このことでしょう)
フローレンスは再度安堵の息を吐き、聖光雄化を解除し、黒色グレータースケルトンの遺体とロングソード、盾を回収。
何に使えるかは解らない。
使えなければ売れば良いだけの話。
アラッドに言われた通り、金の重要性は十分理解している。
(ロングソードも盾も、それなりに良い値段で売れるでしょう…………魔石は、仕方ありませんね)
ここで、確実に殺す。
そんな自分の感情、選択肢が間違ってるとは思えないフローレンス。
だからこそ、モンスターの素材の中で基本的に一番価値が高い素材である魔石を粉砕したことに、後悔はなかった。
「ソルたちの元にッ!!!???」
本能が叫んだ。
今すぐ聖光雄化を使用しろと。
今すぐ、相棒であるウィリアスの元へ向かえと。
これまでの人生の中で……最大の警報がフローレンスの頭に鳴り響いた。




