九十二話 一本道
「さて、この料理が対価ということは、定期的に食わせてくれるということだな」
「えぇ、その通りです……この鉱山に留まる理由として、いかがでしょうか」
美味いという言葉を頂いた。
表情からも騎士たちが作った料理に大変満足している。
ただ、まだこの鉱山を拠点にしても良いという言葉は貰っていない。
「この料理が定期的に食べられるならお主らの要求を受け入れよう」
元々ここの鉱山は住処にしようと思っていたので、断る理由が一ミリも無い。
ただ、そんな事情を知らないフールたちはオーアルドラゴンが自分たちの要求を受け入れたことに安堵し、ホッと一安心した。
「ありがとうございます。それでは、定期的に食材と調理器具を持った騎士たちをここに送ります」
「うむ、楽しみに待っている……そうだな。どうせなら迷うことなく他のモンスターと遭遇しない道があった方が良いだろう」
「そ、それはそうですが……道を作るとなると、鉱山内の道が崩れるのでは?」
オーアルドラゴンが鉱山に滞在するようになってから、若干ではあるが道が変わった。
現在それを調査中であるにもかかわらず、新しい道をつくってしまうと現在の道が崩れてしまう可能性がある。
「安心するがいい。道は鉱山ではなく地中につくる。そうだな……そこのお主、アラッドといったか。そやつと隣のブラックウルフの魔力を感じる場所からここまで、地中に一本道をつくる」
「……つまり、屋敷からここまで一本の道がつくられるという訳ですね」
「そういうことだ。穴は鉄製にするから、地中で移動するモンスターとて砕くことは不可能。どうだ、悪くない案であろう」
迷うことなく、そしてモンスターと遭遇することなくオーアルドラゴンの下まで辿り着ける。
断る理由が一つもなかった。
「その提案を、お受けいたします」
「そうか。それでは屋敷に戻ったあと、ここに通路を繋げたい場所にアラッドとブラックウルフを立たせておけ。穴が開通する瞬間は立っていれば解る筈だ。立っている場所に違和感を覚えたら離れてよい」
「分かりました」
「ワゥ!」
オーアルドラゴンとの交渉は無事に終了し、アラッドたちは来た道を帰る。
「緊張したかい、アラッド」
「え、えぇ。そりゃ緊張しますよ。向こうとしては特に威圧したつもりはないんでしょうけど……モンスターを殆ど見たことがない人がいきなりオーアルドラゴンを見れば、その場で失神してもおかしくないですよ」
「ふふ、そうかもしれないね」
アラッドが今まで戦ってきたモンスターの中では一番メタルリザードが迫力と威圧感を持っていた。
だが、そんな強敵もオーアルドラゴンの存在感に比べれば三流もいいところ。
まるで大人と赤子ぐらいの差があった。
「そういえば、父さん……一人でドラゴンを倒したんですね」
「は、ははは……まぁ、結果だけで言えばそうかもしれないね」
フールが属性持ちのドラゴンと戦って勝利したという話は知っていた。
だが、それは騎士団として戦って勝利したという内容。
それ自体は間違っていないのだが、途中で他のメンバーは負傷して戦線離脱。
まともに戦えるのはフールだけとなり、ソロで暴風竜ボレアスに挑む流れになった。
(別にそこまで謙虚になる必要はないと思うんだが……まぁ、父さんらしいといえば、父さんらしいか)
家の中でも外でもフールが謙虚であることに変わりない。
それは分かっているので、これ以上その点に関して突きはしなかった。
「暴風竜って確かAランクでしたよね……今更ですが、騎士団に残ってほしいと頼まれなかったんですか?」
「はっはっは! 騎士団には多くの逸材がいたから、僕が抜けても特に問題無かったよ。それにいずれは父から領主の立場を受け継ぐことは決まっていたからね」
護衛の騎士たちは国に仕える騎士団に多くの逸材がいることに関しては否定しない。
ただ、フールが副騎士団長の座を退いて領主になったことに関して、全く問題がなかったわけではなく、多くの者からもう少し副騎士団長の座にいてほしいと頼まれた。




