九百十話 何故……
「いくぞ」
「皆、開戦だよ」
両陣営のリーダーが開戦の合図を行い、洞窟内に闘争者たちの雄叫びが轟く。
「ふっ!!」
「ッ!!!」
アラッドと闇竜デネブが会話を行っている間、スティームたちはそれぞれ自分が戦うべき相手を見定めていた。
スティームは黒色のリザードマン。
「ウキャオッ!!!!」
「…………」
ヴァジュラは黒色のハードメタルゴーレム。
「活きが良さそうねッ!!!!!!!!」
「「「ルルゥアアアアアアアッ!!!!」」」
ガルーレは、何故かケルベロスの様に首が三つある黒色のオルトロス。
「クルルゥウウウッ!!!!」
「キィイイイイアアアアアッ!!!!」
ファルは同じく宙を飛べる黒色のハーピィ。
「シッ!!!」
「ッ!!!!」
フローレンスは黒色のグレータースケルトン。
「ッシャアアアアアアアアアッ!!!!」
「ソル、あまり前に出過ぎるなよッ!!!」
「解ってます、よッ!!!!」
残りの九体をソルたちとフローレンスが召喚したウィリアスが相手をする。
「やっぱり、僕の相手は君がしてくれるんだね」
「そうだな」
「それで、あっちの狼の……冒険者の中では、従魔? って言うんだっけ。あの子とは戦わせないの?」
「お前は、俺たちが想定していた最悪に、ことごとく当て嵌まっていた。だからこそ、残せる手札は残しておく」
考え過ぎかもしれない。
クロを参戦させれば、もっと早く、安全にこの戦いを終わらせられるかもしれない。
それでも、アラッドは闇竜デネブが何かしら秘策を講じているとかもしれないと、考えずにはいられなかった。
なので……決して、アラッドはデネブを嘗めていた訳ではない。
(間近で見ると、ハッキリ解るな……魔力量に関しては、確実に俺よりも多い)
アラッドは純粋な後衛タイプの戦闘者ではないが、それでも魔力量は他の前衛と比べて非常に多く、並みの魔術師よりも多くの魔力量を有しているが……デネブの魔力量は、Aランクレベル。
この場にいる生物たちの中で、随一の魔力量を有している。
「ふっふっふ、慎重だねぇ。とはいえ、僕と一人で戦おうっていうんだから、臆病者ではないね」
「あいにくと、無茶をして人に心配されることの方が多い」
お喋りはここまで。
アラッドは挨拶代わりに渦雷を振るって雷斬を放つも、デネブはあっさりと魔力を纏った爪撃で粉砕。
(やはり、ストールやルストより強いな。他者に闇を与える力、魔力量だけが長けてる訳ではない)
紛れもない強者だ。
その事実を感じ取ったアラッドの表情には……当然の様に、笑みが浮かんでいた。
「…………」
「ふぅーーーーー……」
黒色のリザードマンを相手にすると決めたスティーム。
まだ、両者共に全力を出しておらず、互角の勝負が行われていた。
(そうだよね……ドラゴンの配下っていうの考えれば、揃っていてもおかしくないよね)
現在、スティームは普段使用している雷が付与された双剣ではなく、万雷を手に持っていた。
理由は……黒色のリザードマンが有するロングソードが、どう見ても普通の得物ではなかった。
それなりの腕を持つ冒険者を殺して奪った?
確かにその可能性はあり得る。
ただ、スティームが見る限り、リザードマンが有しているロングソードは、それなりに手入れがされていた。
加えて、品質も高い。
普段使用している双剣で斬り結んだ際、黒色のリザードマンの筋力も相まって、このまま使用し続ければ砕かれてしまうという危機感を覚えた。
「……強いな、貴様は」
「っ!!!???」
四回ほどそういった存在を見たことがあるため、闇竜が人の言葉を喋ったことに関しては、そこまで驚かなかった。
だが、モンスターが人の言葉を喋る可能性があると知っていても、いきなりリザードマンが人の言葉を喋られれば、驚くなと言うのは無理な話だった。
「人の、言葉を……喋れるんだね」
「うむ。いつからか忘れたが、喋れるようになった」
(このリザードマン、無茶苦茶流暢に喋るな……闇竜が闇の力を付与したからという訳じゃなく、元々このリザードマンが特別だったのかな)
人の言葉を喋れるというだけではなく、非常に対人戦に優れた剣技を身に付けている。
モンスターも剣技や槍技、斧技などのスキルを会得する。
その上で、一応それらの武器を使った、それらしい動きは出来るようになる。
ただ、モンスターは同じモンスターと戦うこともあり、覚えたとしても対モンスターに効く大振りで力強い攻撃を行ってしまう。
人間相手であっても、一定の差があればそれだけで倒せてしまう。
しかし、力任せの攻撃だけでは倒せない人間と遭遇した場合、基本的にその場で討伐されてしまうことが多い。
「……何故、あなたからは、一般的なモンスターが僕たちに向ける殺気が、感じられないのでしょうか」
「そんな事が気になるのか?」
「えぇ……あなたが僕に向ける圧などは、現在巨大な鋼鉄ゴーレムと戦っているヴァジュラと似ているので」
「あの白毛の大猿か…………可能であれば、あの者とも戦ってみたいものだな。さて、質問に答えるとしようか。とはいえ、特に珍しい理由ではない筈だ。我は……強き者と戦いたい」
脳筋発言を聞き、スティームは盛大にため息を吐きそうになった。




