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スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす  作者: Gai


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七百九十二話 上回る本能

「ねぇ、アラッド。こいつの相手は私がしても良い?」


「あぁ、良いぞ」


「ありがと!!!」


先日までより探索する範囲を広げた三人。


昼過ぎ頃、一体の猛獣と遭遇。

その猛獣は……先日ギルドのクエストボードに記されていた討伐依頼の一つ……ヘイルタイガー。


雪上、寒さに適応した虎のモンスター。


討伐依頼を受けていれば依頼の報酬金額まで手に入ったのだが……三人は一切そういった事は考えておらず、ガルーレはただただ目の前の強敵と遭遇できた幸運に感謝していた。


(スノーグリズリーやスノーウルフ、雪原っていう環境も相まって強かったけど、ここまでの緊張感は得られない!!!)


ヘイルタイガーは……裸の王様ではない。

相手の力量をある程度把握出来る感覚を有しているが、それでもアラッドたちを前にして逃げる素振りを見せない。


「……ガルーレ一人で大丈夫かな」


「心配か? Bランクのモンスターなら、今まであいつ一人で倒してきただろ」


「それはそうなんだけど、環境が環境だからさ」


「まぁ……そうだな。楽な戦いにはならないだろうな」


硬直状態を先に破ったのはガルーレ。


勢い良く地面を蹴って急接近し、右フックを繰り出すも、ヘイルタイガーは滑る様な動きで回避。


「良いね、速いじゃない!!!!」


雪上での動きに慣れているからの速さ。

しかし、当然ながらヘイルタイガーの強味はそれだけではない。


「ルゥアアアアッ!!!!」


「フンッ!!!!!!」


主な攻撃は爪撃だが、一撃一撃が重く鋭い


切れ味と重鈍さという矛盾を有する攻撃は……どんな一撃であっても対応を間違えられない。


「当然だけど、ややヘイルタイガーの方が有利に進んでるね」


「割と生きてきた個体なのかもしれないな。ただ、ガルーレも戦えてる……とはいえ、あいつの敏捷性や体幹があっての対応だけどな」


本気の一撃とは、どうしても足裏が地面に付き、大地を踏みしめて放たなければならない。

それが人間である。


では、モンスターは違うのか?

それはモンスターごとに差はあるが……虎系の猛獣であるヘイルタイガーは、体が宙に浮かんでいたとしても、器用に体を動かして爪撃を叩き込む。


「っ!? ガァァアアアアッ!!!!」


「シッ!!! セヤッ!!!!!!!」


だが、それが得意なのはガルーレも同じ。


標準武器が素手であるガルーレはリーチが短く、骨が砕ければ一気にピンチに追い込まれる。

そんな危険性を承知の上で、ガルーレはこれまで多くのモンスターを殴り潰し、蹴り殺してきた。


「ぅ、おりゃッ!!!!!」


「ッ!!??」


加えて、ガルーレは雪上で行動を始めてから、立体感知のスキルを会得しようと……全身で自身の周辺を把握しようと、意識を研ぎ澄ませていた。


「……ねぇ、ガルーレってあんな器用だったけ」


「素手という武器に関しては、元々器用な方だった……と思うぞ。猪突猛進なイメージが強いのは解るけどな」


迫る爪撃を手の甲や蹴りで弾き、まともに当れば致命傷になる可能性を持つ攻撃を全て対処していた。


「疾ッ!!!!!!」


「ゴァっ!!!!????」


そして遂に、ガルーレの蹴りがヘイルタイガーの腹にクリーンヒット。


発勁の様な特殊な一撃ではないが、放たれた蹴りは重く……毛皮と肉だけでは衝撃を受け止められず、内臓にまで届いた。


「ッ、ッ……ガァァァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」


だが、そこでヘイルタイガーの理性を本能が上回った。


アラッドが予想していた通り、ヘイルタイガーはここ最近生まれた個体ではなく、少なくとも数年は生き続けた個体。

単純に自身が持つ魔力量が多くないことを理解しており、普段から省エネで戦うことを心掛けていた。


しかし、見事腹にぶち込まれた蹴りのダメージによって、あまり消費しない様にと心掛けていた理性が……勝利への執念という本能に上回られた。


「こっからが本番ってことね」


ヘイルタイガーは氷魔法を会得しており、全身に氷を纏うことが出来る。


「……ッ!!!!」


(っ!? 格段に、速くなってる!!!)


風や雷などとは違い、纏うことで直接身体能力が上がることはないが……足に纏うことで形状によって差はあるが、スパイクの様な役割を発揮する。


そして岩などと同じく、纏うことで防御力が上がる。


(か、堅った!!??)


ヘイルタイガーのスピードが上がろうとも、ガルーレが徐々に把握し始めている感知力が途切れる訳ではなく、これまでの経験知も駆使した読みと把握によって打撃をぶち込めることは出来るが、氷の装甲はガルーレの予想以上の堅さを持っていた。


「ッ…………」


「加勢に入ろうか迷ってるのか?」


「心配性すぎるかな」


「悪いことではない。あの氷の装甲の堅さには俺もちょっと驚いた」


当然ながら、ガルーレも全身に魔力を纏い、強化系のスキルを重複発動している。

だが、そんなガルーレが放つ打撃を受けても小さな罅しか入らず、ほんの少し魔力を消費するだけで修復してしまう。


(何か考えながら? 戦ってる様な気がするが………………あいつもプロだ。最低限のリスクヘッジは考えてる……筈だ)


スティームの前では冷静さを装うアラッドだが、内心では少し不安を感じていた。

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