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七百七十八話 経験の重み

「ありがとう、ございました」


「こちらこそ。いやぁ~~、強かったよ。私が出会ってきた徒手格闘がメインの者たちとも十分に渡り合えるよ」


「どうも。まぁ……でも、私なんてやっぱりまだまだですよ」


ガルーレは……初めてではない。


故郷で暮らしている時、同じく徒手格闘がメインのアマゾネスとの指導最中、何度も何度も負けた。

そして故郷を出て、冒険者としての生活が始まってからも、何度か負けを経験した。


(アラッドのお父さんなんだから、強いってことは解ってた。解ってた…………私が油断し過ぎてた? いや、違う。確かに本気の本気ではなかったけど……でも、感覚的には師匠と戦ってる時の感覚に近かった……ちょっと違うけど)


師匠と拳を交えていた際、ガルーレは純粋に身体能力の差で圧倒されていた。

それはガルーレが故郷を離れて冒険者として活動する少し前になっても変わらなかった。


だが、フールとの戦いは違った。

圧倒的に技術と経験値の差を感じさせられた。


(この人……本当にメイン武器はアラッドと同じでロングソード、なのよね?)


本気でそう疑いたくなる程、フールの徒手格闘の完成度は高かった。


「さて、次はスティーム君だね」


「は、はい!!」


ガルーレと模擬戦を行った後なんですから、少し休息を取った方が……なんて言葉が出てくるわけがなかった。


何が何でも勝ちたい理由があるから、という訳ではない。


ただ、ガルーレとの戦闘を観て解ってしまった。

自分とフールにどれほどの差があるのか。



「お疲れさん、ガルーレ」


「……ポーションはいいよ」


「そうか?」


「うん、いらない。これぐらい放っておけば治る。それに……随分と手加減されたわけだし」


アラッドの元へ戻って来たガルーレは、ポーションの使用を断り、大きなため息を吐いた。


「はぁ~~~~~~~~…………」


「随分と大きなため息だな」


「だってさぁ……さっきも言ったけど、思いっきり手加減されたんだよ」


「ロングソードを使わなかったことに対してか?」


「それもあるけど、多分フールさんは脚も使えたでしょ」


格闘戦は拳を使ったスタイルに特化している、とも捉えられる戦いっぷりではあったが、実際に拳を交えたガルーレはそうは思わなかった。


「……どうだろうな」


「とりあえず、諸々手加減されたのよ。ペイル・サーベルスを使ったところでって話とも思えるほど……技術に差があった」


「ガルーレも決して技術力がないわけではないだろ。大きな要因としては、経験値の差だ」


「それって、つまりどう考えられても埋められない差が大きな要因ってことじゃん」


「………………」


まさにその通り過ぎる返しに、言葉が詰まるアラッド。


ガルーレは一度完封と呼べる敗北を体験したからといって、萎える気は一切ない。

ただ、どう越えるべきか……そのぼんやりとした道筋程度は把握しておきたい。


「…………父さんは、基本的にこれ以上戦場に出ることはない。けど、俺達はこれから多くの戦場を駆けることが出来る」


「あぁ~~~~……なるほどなるほど。言いたい事は解った。でもさ、その時はさすがにフールさんも良い歳になって、当主の座を…………ギーラスさんだけ? その人に譲ってそうじゃない?」


「そうだな。けどな、フール。当主の座を引退したということは、自由に動ける時間が一気に増える」


「…………えっ、マジ???」


まさかの答えに辿り着いてしまったガルーレは心底信じられないといった表情を浮かべた。


「ふっふっふ、さぁどうだろうな。ただ、自由な時間が増えてしまうのは間違いない。それに、父さんが歳を取ったからといって、それ相応に老いてくれると思うか」


「思えない、かなぁ。それじゃあ、スティームも同じく完封されちゃう感じ?」


「……模擬戦、という条件下なら、難しいだろうな」


既に、ロングソードを持ったフールと双剣を持ったスティームの模擬戦は始まっていた。


模擬戦ではあるものの、両者の武器は刃引きされていない真剣。


「経験、ねぇ…………大事なのは解ってたけど、なんか……アラッドのお父さんの場合、洒落にならなくない」


「……否定出来ないな」


ロングソードと双剣。

手数であれば、双剣の方が有利なのは明白。


フールが身体能力を制限しないのであればまだしも、スティームの身体能力に近い状態でセーブするのであれば、その有利が消えることはない。


だが……模擬戦開始から一分、スティームの双剣はフールに掠りすらしていない。


「理想的な動き方、体捌きって感じ? もしかしてフールさんって剣聖とか呼ばれてたりして」


「人によってはそう呼ぶ人はいるかもしれないが、父さんは光魔法や聖光魔法は会得してない。騎士界隈で二つ名があるとしたら……おそらく、剣鬼だろうな」


経験から来る動き。

では、いったいどれほどの経験を積んで来たのか。


「剣鬼……あんなに優しい顔してる人が?」


「あれが父さんの素であるとは思うけど……俺も、多分兄弟姉妹全員、父さんが本気で戦う姿は見たことがない」


アラッドが思い付いた父の二つ名、剣鬼。


それは実際にフールと同世代、その更に上の世代の者たちが実際に呼んでいた二つ名であった。

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