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七百五十一話 後悔しないように

朝からテンションがガタ落ちしたアッシュ。


しかし、今更やっぱり今日の訓練には参加しません、と言うことはなく、朝食後には……王城の訓練に馬車に乗って移動。


「おいおい、大丈夫かアッシュ」


「はい、大丈夫です」


「もしかして、朝食の時にラディアさんに言われた事を気にしてるのかな」


「……まぁ、そんなところです」


まさにその通り。


アラッドにも同じ様なことを言われてしまったアッシュ。


アラッドやラディアは強者ではあるが、占い師ではなく未来を見通せる未来視……なんて特別な眼や、スキルもない。

ただ……人よりも歩んで来た経験に重さを感じさせるタイプではあり、とてもただ思ったことを口にしただけ、とは捉えられなかった。


(いけない。参加すると言った手前、勝手にいじけて周囲の雰囲気を悪くするのは良くない。普段通りに、戻らないと)


気を遣えない性格ではなく、自分が一番の歳下であり……本来、同世代の者たちが羨む経験をこれから自分が体験することなども解っている。


「ふふ、別にそのままで良いんじゃないか、アッシュ」


「え?」


「悩むことは、悪いことじゃない。ただ、訓練が始まったら、その時間だけ集中してれば良い。まだ中等部の二年だろ? 卒業するまで、あと四年半ぐらいあるんだ。存分に悩んで悩め。俺みたいに、何も悩まず冒険者になろうって方が珍しいんだからよ」


「そうなの? 貴族の令息に生まれたら、多くの人が悩まず騎士の道に進もうとするんじゃないの?」


「個人的な考えだが、それは貴族の令息という立場がそうさせる……と、俺は思う。勿論俺やスティームが冒険者として活動したり、アッシュが錬金術師の道に進もうとしたり、騎士や宮廷……どこかの家の魔法使いとして仕える道以外にもある。だが、それらしい道じゃない……みたいな風潮はある」


そういった道に進むのが、寧ろ貴族の義務である。


そんな風潮を……アラッドは強く否定するつもりはない。

騎士は、魔術師は国を、国民を守る盾にして剣、砲撃。

強さを手に入れる環境は、貴族の令息や令嬢たちの方が揃っている。


だからこそ、そういった道に進むべきだと……平民たちの中にも、その様な考えを持つ者はいる。


「とにかく、悩むことは悪い事じゃない。寧ろ納得がいくまで悩んだ方が、後々後悔しなくて済む筈だ」


「なる、ほど……」


「ふ、ふふふ」


「むっ、なんだよガルーレ。俺は、そんな変な事を口にしたか?」


「い、いや、そんな事はないよ。寧ろ、全ての子供たちに聞かせて上げたいぐらいね。ただ、それを今のアラッドが言うのかって、思っちゃって」


「……仕方ないだろ。思ってしまったんだから」


まだまだ人生の半分も生きていない若造が言える言葉ではない、そんなガルーレの胸の内は解らなくない。


前世を持つ転生者だから……と、誰にも話してない過去を伝えたところで、それでも納得しないと解っている。

何故なら、前世のアラッド……英二も人生の半分も生きておらず、死んでしまったのだ。


「…………分かりました。アラッド兄さん、まだ……余裕があるうちに、存分に悩みます」


「そうか。まっ、俺は基本的にお前がどんな人生を歩んだところで、否定するつもりはない」


もしかしたら、という思いは無きにしも非ずだが、それをここで口にするのはナンセンスというものである。



「では、やろうか」


ナルターク国王が用意してくれた訓練場に到着し、早速準備運動を始める。


「そういえば、まだ誰が誰と模擬戦を行うか、決めていなかったな」


「……ライホルト、まずは俺と、戦ろうか」


確かに順番を決めていなかった。

ただ、まず戦るのであれば、先日戦えていなかった相手と戦りたいと思うのが当然。


そんな中、アラッドは迷うことなく、ライホルトと戦りたいと答えた。


まだ学生であるリエラを侮った訳ではない。

一年と少し前に戦ったフローレンスと今戦うとなっても、心は踊る。

ただ……その時よりも強くなったフローレンスを追い詰めた強さを、その眼で見てしまった。


「うむ、解った。では、最初の模擬戦は俺とアラッドで行おう」


「……なら、私はアッシュ君と、かな」


「分かりました。よろしくお願いします」


「むっ……では、私はフローレンスさんとね。よろしくお願いします」


「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」


リエラとしては再度、今度こそじっくりとアッシュと戦いたいところだったが、ライホルトとの激闘を征したフローレンスの力にも当然興味はあった。


「それで、アッシュ君との模擬戦が終わったら私……本気のスティームと戦ってみたい」


「っ、僕ですか?」


「うん、君」


いきなり指名されて戸惑うスティーム。


しかし、ラディアとしては戦わない理由がなかった。


「あそこまでアラッドが称賛する人。興味が湧かないわけがない」


「ふっふっふ、それは俺も同感だな。その後は、俺とも戦ろうか」


それはライホルトも同じであり、アラッドともそうだったが、スティームとも是非戦いたかった。


既に、訓練場は準備運動時から闘志が充満し始め……勘の良いものがすれ違うと、何事かと意識を引き寄せられていた。

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