七十四話 強制終了
フールの後に付いて挨拶回りが終わると、その後は自由時間。
フールは他の当主や騎士たちと、リーナとアリサは他の奥様方と会話を楽しんでいた。
そしてドラングは他のパーティーに参加したことがあり、その際に知り合った同年代の男の子たちと話している。
そんな中、アラッドは当初の予定通り……テーブルにズラっと並べられている料理を堪能していた。
「あ、あの。アラッド様、少し宜しいでしょうか」
誰かが自分に声を掛けてきた。しかも声の主は女子。
声が聞こえた方向に目を向けると、そこには十人近い貴族の令嬢たちが立っていた。
(……はっ? なんじゃこりゃ)
一瞬、目の前の光景を理解出来なかった。
しかし直ぐに目の前に立っている女の子たちが何故自分に寄ってきたのか、その理由を直ぐに思い出した。
(そうか、親に少しでも俺と縁をつくってこいって言われたのか)
その通り。
アラッドが冒険者を目指しているという言葉は幾人かの耳に入ったが、それでも副騎士団長まで登り詰めたフールが自慢する子供。
是非娘には縁をつくってもらいたい。
令嬢たちからしても、これからどうなるかは分からないが、侯爵家の令息というのは優良物件なのに間違いない。
ただ……アラッドは貴族の令嬢に囲まれても「モテモテになった!! ヤバい、超嬉しい!!!」とはならない。
声を掛けてきたのが若くてスタイル抜群、そしてハイレベルな容姿を持つ女性ならテンションが爆上がりだが、さすがに若過ぎる。
「……親に俺と縁をつくってこいって言われたのかもしれないけど、縁はドラングとつくった方が良いぞ」
「「「「えっ」」」」
まさかの返答に令嬢たちは驚き固まる。
「俺は婚約と結婚とか今のところ興味ないし……騎士になるつもりはないからな。でも、あいつは真面目に騎士の道に向かって進んでる。だから縁をつくるにしても、俺じゃなくてドラングの方が良いぞ。じゃあな」
言いたい事を良い、強制的に会話を終了。
アラッドは離れた場所に置いてある料理の方へ向かった。
せっかくアラッドに声を掛けた令嬢たちはポカーンとした表情になるが、直ぐに気持ちを切り替えてアラッドが言った通りドラングに近づく者。
そして仲が良い友達同士で話し始める者たちと別れた。
だが、そんな令嬢たちの中に自分たちの声掛けを無下にしたアラッドに対して「せっかく自分が声を掛けたのに、なんなのあの態度は!!!」と、怒る者は誰もいなかった。
それはアラッドの父であるフールが侯爵家の当主……細かく言えば、侯爵家の中でもトップに位置する家の令息だから。
そして令嬢たちがあまり不快に感じなかった要因の一つは……アラッドのいつも通りの態度だった。
横柄な様子はなく、自分たちを見下すような眼もしていない。
ただただ自分の意見を述べ、縁をつくりたいなら弟を選べとアドバイスまでくれた。
アラッドに興味を失った者はいても、嫌いになる令嬢は一人もいなかった。
(実家の飯も美味しいけど、此処の料理はマジで美味しいな!! もしかして王城に仕えている料理人が作ってるのか? それならこれだけ美味いのも納得だ。いや、うちの料理人たちも負けてないか。なにはともあれ、この料理を食べるためだけに参加した甲斐があったってやつだな)
自分が令嬢たちに対してナイス対応をしたことなど知らず、テーブルに並べられた料理を味わうのに必死だった。
そんなアラッドを珍しい物を見る眼を向ける者が多いが、本人は全く気にせず食事を進める。
「ドラング、君のお兄さんは初めて見るけど……どうなんだい」
「……いずれ俺が父様を超えるための踏み台だ。それ以外のなんでもない」
ドラングにアラッドの強さや内面を伺おうとした知人はそれ以上は訊けなかった。
聞けば……咬みつかれるかもしれない。
勿論、ドラングはこんな社交界の場で愚かな真似をするほど野蛮ではない。
しかし同年代の子供にそう思わせるほど、今のドラングは猛々しいオーラを放っていた。
(ふふ、とりあえず仲はあまりよろしくないってことだね)
これ以上は訊けないが、それだけはドラングの不機嫌そうな様子から分かった。