七百四話 ゴミになるか、クソになるか
「なぁ、連れなんて放っておいて俺たちと観て周ろうぜ」
「あんたら、悪いな。そっちの二人は俺の連れなんだ。ナンパならよそでやってくれ」
「……んだよあんたら。邪魔しないでくれるか?」
(はぁーーーー。フローレンスやガルーレを自信満々でナンパするぐらいの顔は持ってる。そこは素直に認めるところだが……なんでこいった連中は、こっちが口にした言葉が右から左に通り抜けるんだ?)
めんどくさ過ぎる、といった感情を押し殺し、会話を続けるアラッド。
「悪いが、邪魔させてもらう。先程言った通り、こいつらは俺たちの連れだ」
「は? さっきまで一緒にいなかっただろ。なぁ、ファレスタ」
「そうだね。もしかして、カッコつけたくなったのかな? 彼女たちにそれだけの魅力があるのは解るけどね」
カッコつけてるのはお前らだろ、っとツッコみたいところではあるが、アラッドは彼等と喧嘩したい訳ではない。
「いや、本当に連れなんだよ。さっきまでは別行動してただけだ」
「この人の言う通りよ。この二人が、さっき話してた連れの二人。どう? カッコ良い二人でしょ」
フローレンスとガルーレをナンパしていた二人をじっくりアラッドとスティームの顔を見て……小さく口の中で舌打ちをした。
スティームは正統派優男なイケメン。
アラッドは貴族の中ではやや少ない、強面タイプの良い男。
個々でも良い顔、良い男ではあるが……ギャップがある二人が揃っていることで生まれる魅力もある。
ナンパ野郎二人はそんな事までは考えていないが、それでも二人がそこら辺の凡人とは違うことには気付け……二人の容姿をバカにしようとはしなかった。
この場には冒険者以外にも貴族出身の客もおり、二人の容姿をバカにする様な発言をすれば、お前らの美的センスおかしいんじゃねぇの、的なヤジが飛んできてもおかしくない。
そこまで考えられる二人は連れの登場にキッパリと諦めるのではなく……作戦を変更した。
「まっ、悪くはねぇな。んじゃあさ、あんたらも俺らと一緒に周ろうぜ。案内できる奴がいた方が観光しやすいだろ」
(へぇ……切り替えることが出来て、そこら辺の輩たちみたいにキレ散らかしはしないんだな)
結局ウザいことに変わりはないが、これまで絡んで来た連中とは違うという事は解った。
「申し訳ないが、それは必要ない」
「おいおいどうしてだよ。別の国から来たんだろ。なら観光案内できる奴と一緒に周った方が良いだろ」
「俺たち、こういった場所しか周らないから、本当に要らないんだよ」
こういった場所という言葉から、アラッドたちがどの様な場所をメインに観光するのか解かってしまった輩二人は……再び小さく口の中で舌打ちをする。
しかし、そこで諦めるような……はた迷惑な根性ナシではない。
というより、それだけの理由で諦められるほど、フローレンスとガルーレ魅力は安くなかった。
「っ、それで「なぁ……マジで要らないんだって」っ!!??」
まだ諦めない二人。
だが……次の瞬間、いきなり肩を組まれ……すぐ横からドスの効いた声が聞こえた。
(こ、こいつ……いつの間に、俺の隣に)
彼等はナルターク王国の王都の学園に在籍している学生。
学年は最高学年、高等部の三年生であり、他の学園を含めても……それなりに上位に入る実力を有している。
それを自覚している輩たちの体に……寒気が走る。
「お前ら、貴族の令息だろ。俺らもなぁ、国は違えど貴族の子供なんだ。そんで、お前らの実家がどれだけデカいの知らねぇけど……あっちの超上品な連れが本気になったら、もうお前らが日の出を見ることはねぇんだよ」
無茶苦茶他力本願な脅しである。
それでも、自分たちが気付かないスピードで動いて肩を組む、そしてドスの効いた声が組み合わさり……脅しとしての効果は半端ではなく、肩を組まれている学生の脚が小さく震え始めた。
「それとな、単純にお前ら鬱陶しいんだ。良い顔を持ってるのは認めるよ。将来は騎士を目指してんのか、結構鍛えてるのは解るよ……けどな、こっちは要らねぇって断ってるだろ」
「っ」
「これ以上ガタガタ抜かすなら、連れがどうにかする前に、嚙み砕かれて溶けて、糞になるって選択肢もあるんだぞ」
次の瞬間、店内にフィンガースナップの音が響き渡り……一体の巨狼が入店し、大きな口を開けた。
「「「「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」」」」
学生二人だけではなく、反応は様々だが他の客や従業員までとりあえず驚きは隠せなかった。
「解っただろ。俺らが言ってる様に、この王都を案内してくれる奴なんていらねぇんだよ。俺らは自分で探す方が性に合ってるからな。それと……お前らみたいなバカが手を出そうとしてきても、どうとでも対処出来るんだ」
「「…………っ」」
「最後にもう一度言うぜ。マジで要らねぇんだ」
「「…………」」
「おい、返事は」
「「は、はい!!!!!!!!!」」
殺される、本能が確信し、二人は背筋をビシッと伸ばし、大きな声で返事した。
「そうか、解ってくれたようでなによりだ。っと、そうだ。お前ら、俺らは少しの間、王都に滞在するつもりなんだが……お前らと似た様な連中に言っといてくれないか。俺たちに観光案内は必要ないと」
「「か、畏まりました!!!!」」
解放された二人はそう告げると、全力ダッシュで店から出て行った。