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六百七十七話 越えないだけ良かった

アラッドたちがパロスト学園を訪れてベルたちと再会した日の夜、レイはスティームとの約束を果たす為にレストランに訪れていた。


ただ、二人きりのディナーという訳ではなく、結局はアラッドやガルーレ……ベルたちも一緒に夕食を食べるため、噂になる様な出来事には発展しなかった。


「やっぱ冒険者として活動してたら、アラッドでも死にかけることはあるんだな」


「死にかけるというか……そうだな。取り返しのつかない事態になったかもしれなかったのは事実だな」


夕食時の話題は、やはりアラッドの冒険譚。


ドラゴンゾンビと戦った一件に関しても話、アラッドはもう少し己の狂気に飲まれそうになったのを包み隠さず話した。


「正直、クロがいなければ危なかったと思う戦いは一つだけじゃなかったな」


「色々とぶっ飛んでるな~~~……そういえばさ、ドラングの奴には会わねぇのか?」


リオがドラングの名前を出した瞬間、場が凍り付く……ことはなかったが、ベルたちはどう反応して良いのか、戸惑いの表情を浮かべた。


「あれだろ。あのトーナメントで戦って仲直りっつーか、こう……わだかまりみたいなもんは無くなったんだろ」


「そうだな。昔みたいに一方的に負の感情をぶつけられる事はなくなったと思うが、それでも仲が良くなったとは言えないからな……向こうも俺が王都に来たからといって、わざわざ会いたいとは思ってないだろう」


「その弟君って、アッシュ君と違ってアラッドのことをライバル視してる子だよね」


「この前話した通りの奴だ」


今は健全と言えるかは分からないが、不健全ではない関係となった……と、一応アラッドは思っている。


「今でもアラッドに負けたくなくて頑張ってるなら、とりあえずその根性は評価できる点だよね~~」


「根性な……アレク先生との訓練は相当ハードだけど、それに文句言うことなく食らいついてるっぽいからな」


「特に粗暴、野蛮ではありませんから、一応令嬢たちからは憧れの対象に入っているらしいですわ」


「……面は良いし、実家は侯爵家。身長は……俺よりちょっと小さいぐらい、か? まだこれから伸びるだろうから……後、アレク先生の指導を受け続けてるなら、卒業時にはそこら辺の冒険者を軽く捻れるぐらいには強くなってるっていうのを考えれば、そうなるのも当然か」


「…………アラッドってあれですわよね。ドラングにあれだけ自分がいないところであれこれ言われていたのに、全然気にしてませんわよね」


良い兄である。


本当に良い兄だな思うが……あまりにも怒らなさすぎではないか? と少し心配してしまう。


「俺、ガキの頃ドラングの奴と結構真面目に? 試合をする機会があったんだが、二回目は……忘れたが、一回目は肋骨にひびが入ったんだったか。結構重い一撃を入れて瞬殺したことがあったんだ」


「な、なるほど? ちなみに、それいつの話ですの?」


「肋骨にひびを入れて瞬殺したのは…………あぁ~、そうだったな。五歳の時だ。あの時は特に何も考えてなかったというか……ちょっとウザいなこいつって思ってたからな」


「そう思ってしまうのは、至極当然の事ではなくて?」


「うん、いやまぁそうなんだが……」


自身が転生者……しかも、違う世界の魂、人格を持つという秘密は誰にも教えていない。


つまり、アラッドが色々とぶっ飛んでいる存在というのは今更な話だが、子供の頃から同じ子供の心を気遣えるところがあるとなると……本格的に何者なのだ? という話になる。


「……とりあえず、今思うと前に進み過ぎていた俺をドラングがやっかむのは当然だった。そう思うようになってからは、特にあいつから面倒な視線を向けられようと、何処かで何かを言いふらされてようと……気にするだけ無駄だと考えていた」


「あなた達二人は、母親は違うのでしたね」


「そうだ。でも、生まれた年は同じ。そんな存在が、自分より何歩も前に進んで……周りの大人たちがそいつばかり

褒めてたら、どうなる?」


「…………そうですわね。少しでもその人を落としたいと思ってしまいますわね」


「そうだろ。俺がドラングの立場なら、どうにかして殺そうとしてたかもな」


兄弟殺し。


内乱などは起きていないが……貴族の家それぞれに様々な事情があり、決して珍しいとは言えない出来事である。


「アラッドさんも、随分と過激な事を仰るのですね」


「ただの本心だ。そいつを殺したいほど憎み、それを実行するか…………優しさに飲まれれば、自殺する」


「「「「「「っ!!」」」」」」


「……そんなに驚いた顔をするな。例えばの話だ。俺がこれからの人生で、そんな選択肢を取ることはない。たらればの話だ」


仮に、自分が転生者であるという状態は変わらず、ドラングが優れた才とセンスを持つ生まれながらのスーパーエリートだった場合であれば……それはそれで燃える展開になったかもしれない。


だが……ただ真っ新な状態の赤子であれば?

嫉妬するのは目に見えている。

何故自分の母親は貴族じゃないのかと、アリサに八つ当たりする可能性大。


「ただ、あいつはそうなってもおかしくなかったのに、俺に対して今は純粋な闘志を燃やしている。多少のイラつきはあるだろうが、それでも真っ当な闘志と言える筈だ。本当に越えてはいけない線をあいつは越えなかった……それだけで、俺は本当にあいつは強い奴だと思う」


あのアラッドが、ここまで褒めている。


それをドラングは知っればどうなる?

仮にベルたちが目の前の光景をドラングに伝えれば……「あいつが俺に対してそんな気持ち悪い事を言う訳がないだろ」と、一蹴する光景が容易に浮かんでしまい、思わずベルたちはドラングに一発ビンタを入れたくなった。


理不尽である。

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