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スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす  作者: Gai


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六百六十六話 打ち砕く為に

「こ、これは……なんだ?」


グリフォンとの戦いを得て、やや感覚が研ぎ澄まされた状態のクラートには、鑑定を使わずとも目の前の骨が……そこら辺のモンスターの骨ではない事に勘付いた。


「こいつは雷獣の骨だ」


「っ!!!??? ら、雷獣って、あの……」


アラッドの口から出た骨の名前を耳にした同業者たちの中には、呑んでいたエールを思いっきり吹き出してしまう者もいた。


Bランクに分類される雷獣も存在するが、クラートや他の冒険者たちの中には、アラッドたちがAランクの雷獣も倒したという話題も知っている。


これも驚くなというのは無理な話だった。


「風と雷は相性が良い」


「い、いや、そうかもしれないけど……な、なんでこれを、俺に」


「英雄は、英雄自身が強くなければならない。だが、それと同時にどんな戦場でもこいつは裏切らないと思える相棒が必要だろ」


クラートがこれまで使用していたロングソードはグリフォンとの戦いで所々欠けてしまい、修復が不可能ではないが……鍛冶師によっては、新しい武器を買った方が、もしくは造った方が早いと考える。


「俺がクラートに貸した得物、あれも雷獣の素材を使用して実家にいる鍛冶師に造ってもらったんだ」


「ちなみに、この双剣もその鍛冶師さんが雷獣の素材を使用して造ってくれたんだ」


迅罰の強さは覚えている。

スティームが見せてくれた万雷は……接近戦タイプの冒険者であれば、自分もこんな武器を……と思ってしまうほどの魅力を感じさせる。


造る鍛冶師の腕にもよるが、自分も彼らと似た武器を……そんな事を考えれば、テンションが上がらないわけがない。


「……けど、俺はアラッドたちに渡せる物は、なにもない」


目標の為に、いざという時に助力出来るかも解らない。


当然、雷獣の素材を払える程の金は……あるか否か怪しい。

そもそも自分は助けられた側であり、その分際で我儘を押し付けてしまった。


受け取れる理由がなかった。


「言っただろ、男が漢に惚れた。英雄の背中を見れた……俺は、それだけで色々と感謝してるというか……あの戦い自体、そうそう観れるものでもなかったしな」


「そうだね~~~。ぶっちゃけ、あれはお金払ってでも観る価値がある激闘だったね!」


「……正直、ちょっと悔しいけど僕とアラッドが闘技場で戦った試合よりも良い戦いだったよ」


「二人も、俺と大体同じ意見みたいだな」


「………………」


「ふふ、それでもまだ納得できないって顔だな」


ある意味強欲なのかもしれないが、こういった部分は謙虚であり……そういった部分がまたアラッドにとって好感が持てる。


「クラートは、あまりこの街から動かないんだろ。なら、手に入れられる素材も限られる」


「それは、そうだな」


「理不尽ってのは、空気を読まず、ある日突然襲い掛かってくるもんだ」


思い出すは、やはりクロがトールに殺されかけた日。


初めて……怒りで前が見えなくなるという現象を体験した日。


「人間、生きていれば必ずどこかで後悔する日が来る。その後悔が……しょうがない、気を付けてまた明日から頑張ろうと思える程度のものなのか、それとも後悔しても後悔しきれない……自分のせいじゃないのに、自分を責めてしまうほど心に傷を負わせるものかもしれない」


「…………」


後悔してもしきれない。


今回の戦い、グリフォンとの戦いで早い段階でクラートが一人で相手を引き受けたが、死者数がゼロだったわけではない。


もっと強い武器を持っていれば……他力本願になるかもしれないと思っても、同業者や同じ戦闘者を救えなかった後悔としては……十分な内容である。


「いつか乗り越えられる、なんて無責任な事は言えない。俺は幸いにも、死にかけた相棒は回復したから……そういった経験がある訳じゃないからな」


トロールに殺されかけたクロは、最終的にブラックウルフからデルドウルフに進化し、今でも元気にアラッドと共に行動している。


大切なものが殺された悲しみ、怒りは知ったが……その後に続く感情は知らない。


「でも、強い武器があれば、また今日みたいな時に、後悔せずに済むと思う」


「後悔せずに……か」


「あまり迷う必要はないと思うよ。正当な評価、報酬を貰った。そんな認識で大丈夫だよ」


アラッドと同じく、今はもうクラートが英雄だと認めているスティームは、自身が止めを刺した雷獣の素材がクラートに渡されることに、一欠片の不平不満はない。


寧ろ、この英雄は……英雄であり続けてほしい。

そんな思いすらあった。


「それに、雷魔法が使えるんだろ? だったら、新しい武器には尚更雷属性が付与されてた方が良いだろ」


「……そうだな。ありがとう、アラッド。スティーム、ガルーレ」


自分を助けようとしてくれた人たちが、今回の功績に対してこれを受け取れるだけの評価があると認めてくれた。


もう後悔しないためにも、必要な物だと……自分の未来を案じてくれている。


もっと強くなろう……守れるようになろう。

この先も冒険者として活動し続ければ、また後悔する日がくるかもしれない。

翌日、そんな未来を打ち砕く為にも、彼は命を預けられる相棒を欲し、街一番の鍛冶師の元へと向かった。

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