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六百三十九話 苦ではない悩み

「…………」


宿から自室に戻ったアラッドは、寝る前に瞑想を行っていた。


パーティーメンバーであり、友人であるスティームのお陰で、下を向いていた気分は改善した。

翌日にあの空気を持ち越すことはない……良い流れに変わったとアラッド自身も思っているが、本人は更に改善させようとしていた。


(落ち着け、落ち着け…………もう少し、何か良い言い方があった筈だ。向こうは向こうで、事情があったんだ)


あれが俺なんだと、特に変わる必要はないんじゃないかと友は言ってくれた。


しかし……自分の言葉を投げかけられた相手が受け取るか……それは外野がどう噂するのかと同じく、アラッドにコントロールできない部分である。


あのやり取りで、結果として実家に迷惑を掛けたかもしれない。


(純粋なこの世界の住人じゃないからこそ……そう思うのかもしれない。でも、そんなのは向こうにとって知ったことではない事情だ)


難しい……本当に難しいと、何度も思う。


「………………もっと楽だと、良いんだけどな」


アマルに伝えた言葉は、本当にアラッドの価値観であり、私情。


それがアマルたちの価値観に合っていないことは……少し考えれば解ることである。


「ふぅ~~~~~~…………っし、そろそろ寝るか」


考えた。

瞑想しながら考えた……というのは少しおかしいかもしれないが、冷静に……一人で考え続けた。


一応、結論は出た。

その結論は、考え続けても仕方ない、だった。



アホなのか?



誰かが呆れ顔でそうツッコんでもおかしくない。


だが、この世界で生まれた住人同士であっても、こいつとは絶対に価値観が合わないと思う者に出会う。

アラッドは……元、工藤英二。

日本人であり、異世界の住人だった。


この世界では同じ貴族の出身であっても……その考えや気持ちを理解出来ても、納得出来ない日はいくらでも来るだろう。


スティームが伝えた通り、それがアラッドである。

それは変えようと思って変えられる部分ではない、本当に根っこにある部分なのだ。


故に…………これからまた何処かで悩むかもしれない。

その度に長く、深く悩むかもしれない。


だが、それもまた仕方がない。

今……アラッドは一応納得した。

また悩むのなら、その納得に意味はないのでは? と思うかもしれないが、どれだけ悩んでも明確な答えが出ない問題というのはある。


アラッドが抱えている問題は、そういう類の問題である。

いつか、納得出来る答えが出てくるかもしれない。

もしかしたら……死ぬその時まで悩み続けるかもしれない。


しかし、アラッドに取ってその悩みは、決して苦ではなかった。



「おはよう、アラッド……昨日は、良い感じに寝れたみたいだね」


「おぅ、まぁな。何と言うか……これ以上あれこれ考えても仕方ないよなって結論に至った」


「はっはっは!!! そうだね。そういう結論に至ることもあるね」


バカじゃないのか? アホじゃないのか? とツッコむことはなかった。


「解る~~~。私も偶に珍しく考え込んじゃうことがあるけど、結局それ以上長い時間考えても仕方ないよね~ってなる」


「共感を得てくれてなによりだ。それじゃ、あいつらを気にせず今日も楽しみながら探そうか」


朝から多めの朝食を食べ、三人は特に依頼を受けず半ダンジョン化したリバディス鉱山へと向かった。


「アラッドってさ~、割と周りの意見とか考えとか気にせず、自分の意志を押し通すタイプ? に思ってたんだけど、割と色々と考えるんだね」


「……ちょっとバカにしてる?」


「ううん。驚いてる」


ディスられてるのかと思ったが、ガルーレの顔を見れば本気で驚いてるのが解り、とりあえず真剣に自分の考えを口にする。


「俺は……別に、暴君になりたい訳ではないからな」


(…………狂化を使って戦ってる時にアラッドの外見は、まさにそれにしか見えない……って言うのは止めておこう)


何だかんだでアラッドが自分の我儘に従って生きているのではないと解っているスティームだが、ここ最近頭の中に深く刻まれた光景は……従魔であるクロと共に狂化を使用しながら戦うアラッドの姿。


クロと連携の取れた攻撃を仕掛けている中でも、ここで俺が決めるというエゴが見え隠れしていた。

結果としてクロの闇爪が決め手となったが、それでも……イメージ、イメージだけはスティームの中で暴君が戦う姿に近かった。


「そりゃあ、全て自分の思い通りに進められたら良いなって思うところは……少なからずある。雷獣の時とか、火竜の時とかな」


火竜の件に関しては、最終的にアラッドは轟炎竜を相棒であるクロと共に戦えたことに関しては良かった。

非常~~~に良かったが、それでもスティームとファルが火竜と戦う機会を奪ってしまったことに変わりはなかった。


「でも、それは文字通り俺の我儘だ。全く関係がない相手に仁義を通す必要なんてないのかもしれないが……その為に準備してきた奴らがいる。そういうのを考えるとな……とりあえず、一回は待つかな。仏じゃないから三回は待たないけど」


「???」


とはいえ、今回の件に関しては一回も待つつもりはなく、全力で剛柔を探し続ける。

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