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六百十八話 何故、渡した?

「だからぁ~~、あれなんですよぉ……やっぱり、外野で見てた俺が、ちゃんと逃がさないように捕縛出来なかったのが、悪かったんですよ~~」


「違うんですよ、レストさん~~~。僕が……僕が、しっかりあいつの行動から、眼を離さず見てたら良かったんですよ~~~。なのに、僕は……私情が燃え上がって、優先してしまったというか~~~」


(…………声を掛ける日を間違ったかもしれないね)


現在、レスト・アルバレスは面倒な酔っ払いに挟まれてしまっている。


酒場で遭遇した三人は夕食を食べ終えた後、二次会をバーで開催。

その際、二人は呑み始めのタイミングから強いカクテルを飲み始めた。


酔える奴をお願いします。


そんな注文をされては、バーテンダーも注文通り度数が高くて酔いやすいカクテルを作り、提供する。

その結果……アルコール耐性が強いアラッドも、数十分後にはちょっと面倒な酔っ払いになっていた。


「……いや、うん……あれだね。逃げられたのは、仕方ないと思うよ。私たちも良いところまで追い詰めたと思ったら、あっさりと逃げられてしまったからね」


決して見栄を張っている訳ではなく、本当に獅子の鬣から派遣されたレストたちはあと一歩のところまで……と言うのは少し大げさだが、それなりに良いところまではソルヴァイパーを追い詰めた。


だが、これ以上戦っても目の前の人間たちを追い払えない、倒せないと考えたソルヴァイパーは……逃げに力を全振りした。

逃走癖が強いソルヴァイパーがそうなってしまうと……とにかくそこから追いつくのは難しい。

大半の人間がそうなってしまっては絶対にどうにも出来ないと答える。


「それに、白雷を会得したんだって?」


「そうなんですよ~。赤雷を双剣に纏わせて、思いっきりぶった斬ろうとしたんですけど、斬れなくて……そしたら、望んでた光景が見えたんですよ」


「…………」


レストから見て、アラッドの方がそういう戦いが大好きなイメージが強かったが、こうして本音? を零しながら話してみると……この子も大概だなといった思いが生まれた。


ただ……話す内容は、解らなくもない。


「そうだね。望んでた光景が実現した……そうなると、期待してしまうのは当然。最初が百パーセント期待通りじゃなかったことを考えると、余計に期待してしまうだろうね。僕も…………その気持ちは解るよ」


結果として新たな強敵、強モンスターを生み出してしまったことはいただけないが、それでもアラッドがギルドに伝えていなかった素材を渡したことで、一人の娘の命は助かる。


「はっはっは!!!!! やっぱりそうっすよね! あそこで激闘が起こると思わないなんて、冒険者としてちょっとおかしいっすよ……って、あんまり今回の件を正当化するのは良くないんすけどね~~~」


「それでも、君はユニコーンの角をギルドに提出した…………私としては、それはとても正しい判断だと思う」


「そう言ってもらえると、少しは救われます~~」


「ただ……本当に良かったのかい?」


「何がですか?」


「ユニコーンの角を渡してしまった事だ」


当然ながら、アラッドは冒険者ギルドにユニコーンの角を渡したことで、依頼書に提示されていた通りの大金を手に入れた。

その額は……白金貨に収まらない額である。


ユニコーンはソルヴァイパーとはまた毛色が違い、そもそも自身……もしくは同族に迫る危機に対して非常に敏感。

故に、接触することすら非常に困難な存在。


「ユニコーンの角は……買おうと思って買える物ではない。それこそ、侯爵が個人的に使えるお金を全て動かしても……手に入れられるかどうか怪しい。それほど、手に入り辛い。君は確か錬金術を好むのだろう? であれば、ユニコーンの角は絶対に手放したくない素材だ」


「…………」


レストの言う通り、ユニコーンの角は手に入れようと思って手に入れられる素材ではなく、大金があっても手に入る素材ではない。


他の貴族によっては、侯爵が支払った大金よりも更に莫大な額を支払うことも十分にあり得る。


(それに……この子は、ただ強いだけではない……何か、目標の為なら茨の道に……修羅道に、進む危うさを感じる。下手な正義感が鬱陶しいと思ってしまうタイプだと勝手に思ってたけど……もしかしたら違うのかな?)


自身が感じていたアラッド像では……ソルヴァイパーを仕留めるのに失敗したら、それはそれで仕方ないと本当に諦めると思っていた。

もしくは……ユニコーンの角が素材の代用品となるとしっても、提出を渋ると気がしていた。


「ん~~~…………あれっすね。正直、ソルヴァイパーを逃がしてしまったことは、しょうがない仕方ないって思ってます。ただ、出来るのにわざとやらなかったら……実家に迷惑が掛かると思ったんで」


「……家族想いなんだね」


レストにとって、それはやや予想外の答えだった。


「幼い頃から、色々と無茶? してたんで…………あれっすよ。だからこそ、一時だけ学園にも入学したんですよ。特例で速攻卒業させてもらいましたけど」


「へぇ~~、そんな事が………………少し、関係ない質問にはなるけど、アラッド君は何になりたいのかな。英雄? それとも勇者? もしかして、世界最強?」


「…………レストさん。知ってますか」


アラッドは……レストが尋ねたどの道も進むつもりはなかった。


「世界最強というのは一旦置いといて、英雄や勇者って言うのは……どうやら、肉を食べたい人に肉を渡さないといけないらしいですよ」


「うん………………うん????」


訳ワカメ過ぎる言葉に無数の疑問符が頭の上に浮かぶ。


「俺は、美味い肉があったら……とりあえず、まず自分が食べたい。後……周りの状況に自分の行動を左右されるのは……あんまり好きじゃないんですよ」


「…………強者だからこそ、何かに縛られたくない、という事かな?」


「ん~~~……何も知らない連中から、下手な理想論を押し付けられるのは、勘弁してほしいかも、ですね」


前世という、ほぼ一般人にすら多くの人間の意見がぶつけらる時代を生きていたからこそ、それは叶わぬ望みだと解ってはいるが……それを望むな、口にするなと言うのは無理な話だった。

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