五百九十四話 クラッシャー?
(な、なんだよ……これ)
(あいつは、俺たちより……歳下なんじゃ、ねぇのかよ)
先日、水蓮のメンバーたちはアラッドとすれ違った。
そもそもアラッドとスティームは特徴的な従魔を連れているため、その街に入ってくれば直ぐに情報が入ってくる。
そしてアラッドとスティーム、両名とも既に冒険者として名を上げている為、水蓮のメンバーたちは彼らについてある程度の情報は得ていた。
アラッドという冒険者になって間もない若造が、既にAランクのモンスターをソロで討伐したという情報も耳にしていた。
水蓮ではそれなりの教育環境が整っており、相手の実力を見た目で判断するなと、戦闘者としては当たり前のことを再度伝えられる。
それでも……アラッドが冒険者として活動を始めてから打ち立ててきた功績は、どれも非現実的なものばかり。
どれも噂に尾ひれ背びれが付いた物ばかり。
新人離れをした実力はあっても、協力者がいた筈と考える者が大多数。
しかし、今現在。
彼等の前の前で……従魔の巨狼と一緒にとはいえ、明らかに自分たちが戦っていた時よりもパワーアップしていた。
数は一体と減ったが、自分たちが万全な状況であっても勝てるか疑わしい。
そんな存在と、たった一人と一体で戦っている。
「疾ッ!!!!!!」
「ガルルゥアアアア゛!!!」
「ッ!? ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」
このままではウグリール山が破壊されるのではないか、そういった非現実的なイメージが頭に過るほど、別次元の戦闘が継続されている。
(アラッド…………噂は聞いていたが、これほどまでの戦闘力を持った怪物だったとは……くっ!!!!!!)
まだ心は折れていない、派遣隊のエースであるアリファ。
心こそ折れてはいないが、それでももし……最初からあの二人が二体の火竜と戦っていれば、と想像せずにはいられなかった。
確かに彼女たちは二体の火竜をあと一歩のところまで追い詰めた。
フレイムイーターで大ダメージが二体の怒りに触れてしまったというのは想定外ではあるものの、あと一歩まで追い詰めたのはさすがと言えるだろう。
しかし、結局のところ彼女たちは倒し切れなかった。
結果として今はアラッドとクロが激闘を繰り広げており、大きな被害は出ていない。
それでも……彼女たちが討伐に失敗したという事実は変わらなかった。
(……あれだね。やっぱりアラッドは同期クラッシャーだね)
ほんの一瞬だけ水蓮のメンバーたちの表情を確認したスティーム。
認めるしかないといった表情を浮かべるベテラン。
悔しさで拳を強く握りしめるも……目には強い闘志が宿っているアリファや他の若い実力者たち。
そして……目の前の激闘を、膝を付いて呆然と眺める者たち。
膝を付いている者は、比較的若い者たちだけだった。
(成り上がる、単純に強くなる……そういった目標を持っている人たちからすれば、目の前の戦いはある意味、毒かもしれない)
スティームは変わらず、自分ならどう動くべきかと考え、成長した自分であればどうするかと考えながら観戦中。
アリファや、彼女に次いで実力のある者たちも思考を切り替え、目の前の激闘を一瞬も見逃したくないという考えに至っていた。
「ッ!!!! んの、最高だッ!!!!!!!!」
とはいえ、ギリギリ躱したとはいえ、余波の熱で肌が焼けながらも「最高だッ!!!!!」と嬉々とした表情で叫ぶ気持ちまでは理解出来ない。
(……偶に、あぁいった頭のおかしいバカはいるが、それと同じ……と思って良いのか?)
アラッドが貴族だと知っている為、失敬な考えなのは解っている。
だが、自身がダメージを負ったにもかかわらず笑ってしまった経験がない。
ただ同じような様子で戦う人物は見たことがあり、その男は中々のバカだったため、もしや同じくバカなのかと思ってしまった。
(しかし、今のあのドラゴンの炎は……さすがに、喰らえないな)
火を喰らうスペシャリストが喰いきれないと諦めるほどの熱を持つ轟炎竜の攻撃は……当然ながら、アラッドの皮膚やクロの毛を焦がしていた。
スピードこそ加速を続けるアラッドが上回っているが、パワーと総合的な火力は轟炎竜が上回っていた。
「ガァアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」
咆哮一閃。
轟炎竜は……もう自分が長くないことを悟った。
まだ戦える……まだ戦えるが、それでも一人と一体に勝ち切れるイメージが湧かない。
だとしても、逃げるという選択肢はなかった。
共に戦い、暴れ続けた同胞を食らって繋いだ命。
進化に歓喜こそしたが、消えゆく命を惜しいとは思わなかった。
「ぬぅぅううううああああああああああッ!!!!!」
「ッ!!!!!!!!!!!!」
渦雷の効果でトップスピードまで加速した直後、迅罰を取り出し……今現在、アラッドが繰り出せる最大火力の斬撃を放った。
轟炎竜も最後まで吼え、両腕で弾き返そうとするも……これまでの疲労もあってか、両腕は完全に砕かれた。
「アォォオオオオーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!」
強者への称賛。
クロは同じモンスターだからこそ、轟炎竜が自分たちに向ける感情を読み取っていた。
最後までドラゴンとしてのプライドと強さを捨てなかった轟炎竜に対し、最高の闇爪を繰り出した。




