五十八話 つまらない暴言なんて出てこない
「さて、とりあえず……バークとダイアは俺と模擬戦しようか」
約束通り、アラッドはバークたちに一週間に一度、訓練を行うことにした。
「まずはバークからだな」
「は、はい! よろしくお願いします!!」
言い終わると同時に駆け出し、上段から木剣を振り下ろす。
(思い切りの良い斬撃だな)
あっさり躱されてしまうが、振り下ろした勢いのまま崩れることなく、連続で木剣を振る。
時には突きを混ぜながらスタミナが続くまで永遠に振って振って突きまくる。
「ま、マジかよ……」
普段からバークと自分たちなりに素振りや模擬戦を行っているダイアにとって、信じられない光景だった。
(お、俺よりちょっとだけ強いバークの剣がか、掠りもしないなんて)
二人の表情を見ると、更にその差が分かる。
バークは何十回、百回近く木剣を振っているせいで息が上がっているが、対するアラッドは息一つ切れていない。
「ほい、終わりだ」
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう、ございました」
木剣が地面に付いた瞬間を狙って優しく頭に剣先を乗せる。
力量差が十分過ぎるほど解かる一戦だった。
「次はダイアだな。遠慮せずに掛かってこい」
「う、うっす!!!」
手に持つ木斧に力を入れ、バークと同じく全力でアラッドに当てようと振りまくるが、当たる気配がしない。
頭を使ってフェイントを入れても全く引っ掛からない。
(す、すげぇ……本当に強ぇ)
逃げてばかりじゃねぇか!!! なんて言葉は出てこない。
仮にアラッドが本気で攻めれば、簡単に急所へ剣先が突き付けられてしまう。
そんな未来が分かってしまった。
結果、ダイアもバークと同じく何も出来ず頭に剣先を優しく置かれ、模擬戦は終了。
(二人とも戦闘系のスキルを授かっただけあって、かなり動けてるな。変な癖みたいなところは我流で鍛えたからかな? それを正せばオーケー。素質はあるな……うん、多分ある筈だ)
決して神ではないので、二人に才能があって未来は明るいと断言は出来ない。
「あ、あの……私たちも模擬戦をした方が良いのでしょうか」
「え? あぁ~~……そうだなぁ。二人とも授かったスキルが魔法系だし、今は良いよ。ただ、後衛だからって全く接近戦で戦えなくて良いって訳じゃないからな。杖で突いたり払ったり……あと短剣も扱えると便利だな。他には鞭やフレイル、モーニングスターとか使えると敵に近づかれても対処出来る」
長所があるなら長所を重点的に鍛えるべき!!!
その意見が決して間違っていると思っている訳ではない。
ただ、アラッドとしては万が一を考えないと後で後悔するという思いの方が強かった。
「旅立つまでまだまだ時間はあるから、自分に合う武器を選んだら良いよ。フレイルとモーニングスターは今ないけど」
短剣の木製は大量にあり、鞭も少しだがある。
しかし当たり前だが木製ではないので、当たるとかなり痛い。
モーニングスターも使う者がいないので、発注しなければならない。
「あっ、あとバークとダイアも盾を使えるようになった方が良いな。あるとないとじゃ全然違うと思うから」
まだ盾の扱いは学んでいない。
だが、狩りの際に一緒に行動する兵士たちは偶にどれだけ盾が重要なのか力説する。
そしてその力説は決して間違っていない。
「ダイアは……大盾を持った方が良いかもな」
「タンクってやつですか?」
「あぁ、多分一番線が太くなりそうだからな。他三人を敵から守るのは一番お前が適してる」
敵から仲間を守る。
その言葉を気に入ったダイアのテンションは加速した。
「今すぐ訓練に入ろう!!!!」
「待て、盾に関して俺もペーペーだから教えられることがない。そっちはまた今度専門の騎士に頼む。今日はとりあえず基本的な攻撃方法と間合いの取り方。そこら辺を教える」
魔法に関してはあまり知識を外に漏らしたくないゆえ、アミットとエレナの指導はメイジの一人に任せた。
そしてアラッドはこのまま続ければ確実に戦えるようになる、といった素振りなどを教えて後はひたすら模擬戦をしながら注意点を伝えた。
(つまらないと思うかもしれないけど、基本的な動きができないと実戦で上手く動けないんだ……だから腐らず頑張れよ)
初めてドラングのあばらに一発入れたあの動きは、地道に反復を行ったからだと……そこは断言できた。