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五百七十話 感じ取れる筈

(なんでこんな事になったのやら……って考えるだけ無駄か)


(多分……あれだよね。アラッドだけに用があるんだよね)


緑焔のメンバーと共にサンディラの樹海で木竜に関する情報を探った翌日、本日も同じ先輩たちと探ろうと思っていると、数人の騎士がアラッドの泊っている宿に訪れてきた。


「お時間はあまりお取りしません。ですので、少しだけ領主様に会って頂けないでしょうか」


明らかにアラッドより、スティームよりも歳上で……しかも強い騎士が、丁寧な口調で頼んできた。


ちょっと面倒……そう思いながらも、アラッドはここでこの騎士の頼みを、領主の頼みを断れば、それはそれで面倒に発展すると理解。


考え込んだ時間は、たった数秒。

アラッドは宿の従業員に伝言を頼み、馬車に乗って領主の屋敷へと向かった。


「こちらに領主様がいらっしゃいます」


通された屋敷を歩き、真っすぐ……領主がいる部屋へと案内され、中に入ると……一人のやや痩せ型の男性がいた。


「初めまして、アラッド君。そしてスティーム君。ナルバ・ホーバストです。ささ、こちらへどうぞ」


「どうも」


君呼び……ではあるものの、瞳の奥から経緯に加えて不安を持っていることが解かる。


「ホーバスト伯爵様……現在、冒険者の身でこういったことを口にするのはあれだと解っていますが、直ぐに本題へ入りましょう」


「いえいえ、こちらこそそう言ってもらえると幸いです…………お二人は、このまま街に残られるのでしょうか」


ホーバスト伯爵にとって、最も気になっていた部分はそこだった。


自身の街を拠点とするクラン、緑焔が強いことは知っている。

伯爵家に仕えてくれている騎士や魔術師たち、緊急時と判断して派遣された騎士団たち……彼らの実力も信用している。


だが……それでも、それでも万が一……想像しうる限り起こり得る最悪の危機に、尋常ではない恐ろしさを感じる。


木竜はBランクではなく、Aランクのドラゴン。

冒険者や騎士たちの間で、そのランクのドラゴンを倒してこそ真のドラゴンスレイヤーと語られている……そっち側。


(彼らが……彼らが居れば街が、住民たちが生き残れる可能性が、高まる)


既に緑焔のクランマスターであるハリスとの情報交換は終えており、ナルバも木竜が殺されたのではなく、どこかに消された可能性が高いと判断。


その可能性を考えた際、手札はどれだけあっても足りない。

そんな中、幼い頃からその戦闘力の高さが注目視されており、完全に表舞台に出てきてからは数々の功績を上げ続けていく超新星が……偶々なのか、問題を抱えている自領に来てくれた。


最近一緒に行動するようになったスティームの実力もギルドを通して聞いており、嬉しい戦力の一人だと思っている。

ただ……アラッドが先程口にした通り、彼らは冒険者。

その気になれば、いつでも街を離れて別の場所に向かう事が出来る。


(解っている……まだ歳若い彼らに過度な期待を寄せるものではないと解っている……それでも!!!)


どうしても、頭に最悪の可能性が過り、両膝を握る力が強くなる。


「えぇ、勿論です。というか、最初からサンディラの樹海に生息する木竜がいきなり消えたことが気になって、ジバルにやって来たので」


「……そ、そうだったのですか?」


「はい。ですので、今回の問題が解決するまで、ジバルを出ることはありません」


木竜が消えた要因となりうる人物、その人物が所属するあれこれなどが解ってしまったこともあり、何があっても引くつもりはない。


例え……家族やガルシア達に一旦引いた方が良いと言われても、応える気は一切ない。


「仮に……木竜が突然現れ、怒り狂い……暴れ回るようであれば、俺たちが……緑焔の方々も含め、自分たちが倒してみせます」


「ッ…………お願い、します」


領主があまり低姿勢で客と接することは良くない。

そんな事は解っている、重々承知している。

それでも……目の前の青年の毅然とした態度に目頭が熱くなり……思わず涙を零し、頭を下げてよろしく頼んだ。



(俺たちが倒すとは言ったが……できれば、そうならずに事を治められるのがベストなんだけどな)


領主との短い対話を終えた後、二人は馬車に乗って宿へと戻っていた。


「……見せる必要は、あるか」


「どうしたの?」


「いや…………最善の形で収めるには、全てを使う必要があると思ってな」


「万雷や迅罰も使ってってこと?」


「……それも含めて、だな」


「それなら、僕は予め万雷に赤雷を纏っていた方が良いね」


「それは……まぁ、そうだな。それも、大きな抑える力になるな」


赤雷を使用した落雷。

使用者の技量次第によっては、万雷を一つの雷に纏めて放つことも出来る。


まだ、理想には遠いものの、スティームは広範囲ではなく一体の敵に向けて放つには十分な程、万雷を束ねることは可能であった。


(…………出来る、筈だ。暴走状態であっても、それを感じることは出来るだろう……後は、どれだけ早く現場に駆け付けられるかだ)


大丈夫だと、出来るの可能性は決して低くないと己を鼓舞し、今日も緑焔の幹部たちと共にサンディラの樹海へと向かった。

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