五百四十六話 カチコミ?
(あぁ~~~……これはあれか、金の問題だな)
今回の一件が成功すれば、ギルドから受け取れる報酬金以外に、盗賊団が溜め込んでいた諸々が手に入る。
そういった収入事情を考えれば、既に討伐隊を組んでいる冒険者からすればふざけるなという話になる。
「……ギルドマスター、事情は察した。だから、これで勘弁してほしい」
「っ!?」
事情は察した……そう言いながら、アラッドは懐から白金貨三枚を取り出し、テーブルの上に置いた。
「俺たちが先にあの盗賊団を倒したら、この金額分を報酬として参加者たちに渡してやってほしい」
「ほ、保証をしていただけるのは有難いのですが、本当によろしいのですか?」
「あぁ、構わない。俺も冒険者だ。いきなり仕事を奪われるのはふざけるなと怒る気持ちは解る。まぁ、これでも文句がある者はいると思うが……それ以上の文句は、俺たちとの競争に負けたと思って諦めてもらうしかない」
元々ギルドマスターはアラッドたちに帰ってくれ、もしくは討伐隊と協力してくれると頼み込むつもりは出来なかった。
頼み込んだところで聞き入れてくれるとも思ってなかった。
ただ、こちらにも事情があるのだ、という事を伝えて良い方向に発展してくれれば……と思っていたが、予想以上に話を解ってくれた。
「それでは、失礼する……それと、俺たちはこれから盗賊団の襲撃に向かう。討伐隊のメンバーに伝えたければ、好きにしてください」
それだけ最後に伝え、執務室から退室。
「アラッド、わざわざこれから襲撃に行くって言わなくても良かったんじゃない?」
「だろうな。でも、後でごちゃごちゃ言われそうだろ。まっ、俺たちがフライングスタートしてることに変わりはないけどな」
本当は一日休んでから実験に向かうつもりだったが、急遽予定変更。
スティームも今日は休むと思っていたが……予定変更に特に文句はなかった。
「クロ、頼むぞ」
「ワゥ!!」
執務室からギルドの外に出る間、アラッドたちがここに来たと知った同業者たちは二人に視線を向けていたが……それでもアラッドとギルドマスターがどんな話をしていたかまでは知らず、下手に絡む者は現れなかった。
そしてアラッドは宣言通り、直ぐに街の外に出て噂の盗賊団を探し始めた。
クロの鼻を持ってすれば、人間の匂いと獣の匂いが混合している場所を発見するなど朝飯前。
三十分もせずに噂の盗賊団が拠点にしているであろう洞窟タイプのアジトを発見。
「ほぉ~~。本当に獣系モンスターをテイムするのが得意な盗賊がいるみたいだな」
アジトの出入り口には見張りの盗賊以外に三体のブラウンウルフがいた。
「それじゃ、予定通りクロとファルは盗賊たちが漏れないように見ててくれ」
「ワフ」
「グルル」
「っし……暴れるか、スティーム」
「そうだね。今日はそういう日だからね」
手に入れた新しい得物……万雷と迅罰を抜剣。
二人はアジトの真正面から潰しに向かった。
「っ、なんだてめぇらッ!!!!」
「襲撃者だ。見れば解るだろ」
「はは! 自殺志願者みたいだな。お前ら、やるぞ!!!」
襲撃者は人族の青年が二人。
それに対し、自分たちの数は人間が二人とブラウンウルフが三体。
数だけならば負けてないが、負けてないのは本当に数だけ。
「中にはもっと強い連中がいるだろうな」
「実際に優秀な相棒がいるから解ることだけど、いるといないとで本当に敵の倒しやすさが変わるからね。頭領の人以外もそれなりにレベルが高いんじゃないかな」
「……そうだな。不謹慎なのは解ってるが、そうじゃないと困る」
盗賊とブラウンウルフの断末魔は既にアジト内に届いており、襲撃者を迎える準備は整っていた。
「お前ら、なに者だ!!!!」
「誰でも良いだろ。そんな事より……頼むから、死ぬ気で挑んでくれよ」
アラッドの眼は既に狩人のそれ……に、更に凶悪さが加わった状態となっていた。
普段であればここでスティームが指摘、もしくはツッコむのだが……今回の戦闘に限っては、スティームも同じ眼をしていた。
「ぎゃああああああああっ!!!???」
「な、なんなんだこいつら!!??」
「無駄に慌てるな!!!!! いつも通りの戦法、で……うわあああああ!!!???」
迅罰が振るわれれば、鈍い音を出しながら人体を斬り裂く。
万雷が振るわれれば、場所関係無しに雷を落され……場合によっては一撃で死。
双剣ということもあり、その場で振るわれた斬撃が空振りだとしても、それが本当に空振りなのか分からない。
「どうしたっ!!! 伝えただろ! もっと、殺す気で来いッ!!!!!」
元気が有り余り過ぎ、好戦的過ぎるヤ〇ザのカチコミである。
相手が人であろうがテイムされているモンスターであろうが関係無く轟雷が、旋風が巻き起こる。
「お前ら、下がれッ!!!!!」
「ぼ、ボス!!!! あ、れ……」
盗賊団が半壊する前にビーストテイマーと呼ばれているボスが登場。
(……なるほど。テイマーのボス自身、かなり戦えるみたいだな。ったく、それだけ戦える力と一握りの才があるなら、冒険者として大成したかもしれないのに)
いつ、その才が開花したのかは知らない。
それでも、そう思わずにはいられなかった。




