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五百三十九話 大人の優しさ?

「つか、決勝戦で戦ったフローレンス・カルロストだったか? 超美人なんだろ。その人からそういうの申し込まれたりしなかったのか?」


「超美人なのは認めますけど、そういうやり取りはなかったですよ。それに、俺あんまりあの人のこと好きじゃないんで」


「へぇ~~~~~……なんか、アラッド的には珍しい回答なんじゃないの?」


彼等はアラッドの存在を幼い頃から知っていれど、細かい部分は全く知らない。

だが……よっぽどの屑じゃない相手に嫌い、または好きではないと言うタイプには思えなかった。


「そうかもしれませんね。まぁ……それでも、強かったのは認めざるを得ませんけど」


「聞いたわよ。とてつもない激闘だったって。もうこの先、学生同士の戦いであれ以上の戦いは観られない。そう言われるほどの名勝負だったそうじゃない」


「……どうですかね。そうとは限らないと思いますよ」


知った様な口ぶりで、自分とフローレンスの激闘以上の名勝負が生まれるかもしれない……なんて言葉を吐いてから「やっぱり今の無し」と取り消したくなった。


アラッドの脳裏に浮かんだ存在は自身の弟、アッシュ。

明らかに……絶対に自分よりも高く強烈な才を持つ弟であれば、と思ってしまうのも無理はない。

しかし、名勝負というのは、誰かと勝負をする限り……一人では決して生まれない。


その強者と同等の力を持つ者がいてこそ、名勝負というのは生まれる。


「にしても、アラッドがそこまで堂々と認める、なんて口にするとはな……そんなに強かったのか?」


「土壇場で新技を使ってきたんですけど、それが未完成だったのを考えると、やっぱり焦りますね」


あの……あのアラッドが、焦ると口にした。

まさかの言葉にベテラン冒険者たちはエールを呑む手が一瞬止まった。


「そんなに、べらぼうに強かったのか」


「はい、とんでもなく強かったですよ。クロをリングに引っ張ってきたことは卑怯だと思ってませんけど……あれを完成させられたらと思うと、背筋が凍りますね」


あの戦いで全てを晒したわけではないものの、精霊同化が完成してしまえば……最後の一手となったマリオネットによる不意打ちは完全に通じなくなる。


(俺もあの頃と比べて、肉体的な強さは上がったが……やはり、まだ足りないな)


そもそもな話、アラッドにとってフローレンスはドラングの様な関係を持つ相手ではない。

そのため、まず何処かでもう一度戦うという事が起こり得るか分からない。


アラッドは一瞬は全力で否定するかもしれないが、かなりフローレンスの事を意識していた。


「……とりあえず、俺とフローレンスはそういう関係ではないですよ。それに、他の令嬢たちともそういう関係に発展してませんし、発展する可能性もないと思いますよ」


「なんでだよ。貴族の女たちから見ても、アラッドは優良物件だろ?」


「確かに金は持ってますけど、俺は皆さんと同じぐらい……もしくはそれ以上、冒険者として活動を続けるつもりです。そんな男性を貴族の女性が受け入れると思いますか?」


「あぁ~~……なるほど?」


納得出来なくはない説明ではあるものの、ベテラン冒険者たちからすれば……目の前に例外的な存在がいる為、即座に頭が回る者は痛いところを突く。


「でもでも、アラッド君っていう超例外がいるってことを考えると、そういう例外的な子がいてもおかしくないんじゃないかな」


「うっ……それを言われると、中々反論出来ないですね」


よくよく思い返せば、アラッドにはアッシュという同レベル……もしくはそれ以上の、中々にぶっ飛んだ弟がいる。


加えて、スティームの実家であるバリアスティー家の血筋は、特別雷の魔力に秀でているわけではない。


周りを良く見れば、意外と世間一般的には例外と呼べる存在がいる。

その事実を改め認識したアラッドには言い返せる言葉がなかった。


「でも、今のところそういう事は考えてないんで、申し込まれても断るしかないですよ」


「余裕たっぷりだな、この野郎~~~。羨ましいぜちきしょう! スティーム君はどうなんだい」


「僕ですか? 僕も……正直、今はそういう事は考えられないですね」


「なんだよ、歳頃の野郎が揃いも揃って草食だな~~~」


この様子だと、二人にそういう人は当分現れない。


殆どの者たちがそう思っていたが……何名かの勘が鋭い者は、オーアルドラゴンと同じく、僅かな差異を感じ取っていた。


(そういう人はいないと言いつつも、やっぱこう……捨ててるよな?)


(一皮剥けたと思ってるのは私だけかしら?)


(もしかして、店で捨てたことが恥ずかしいと思ってるのか? まぁ、俺らとはちょいちょい思考が違う部分があるから、そう思ってもおかしくはないけど……実際のところ、どうなんだろうな)


ベテランであるからこそ、人生経験がそれなりにあるからこそ、実はアラッドが童貞を捨てた件に関して勘付いてはいたが、彼らはそれを口にすることはなく……最後までアラッドと一緒に呑める酒の味を楽しんだ。


そして……先輩たちから「祝いだ祝い!!!!」と言われながら何杯ものエールを呑み干した結果……屋敷に入った瞬間、近くにいた執事に倒れかかる様にぶっ倒れた。

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