五百三十五話 そこまでならオーケー
「「「「「「っ!!??」」」」」」
「そうか。まぁ、筋骨隆々な肉体を持ってるわけではないし、他種族とのハーフって訳でもねぇ。お前がそう思うのも無理はないだろう」
バカを止めようと動こうとしたベテラン冒険者、ギルド職員に待てのジェスチャーを送り、バカとの会話を続ける。
(悪くない筋肉を持ってるじゃないか。あれは……地道に鍛え上げなければ手に入らない体だ。俺に真正面から突っ掛かってくる時点でバカではあるんだが、それでもギルの様なアホ過ぎるバカって訳ではなさそうだ)
アラッドにとって……ただ絡んで来た相手が、自分の見た目に噂通りの実力を感じないといった理由で絡んでくるのであれば特に文句はなく、負の感情が湧き上がる事はない。
「だからといって、真正面から俺にそういう事を言うのは面白いけどな」
「自信があるって面だな」
「自信がなければ、こんなに堂々とした態度を取らないだろ。それはお前も同じだろ」
バカはその通りの言葉を返され、イラっとするのではなく……アラッドと同じくニヤッと笑った。
「おい、こいつ以外にも俺の実力……噂に疑問を持ってる奴はいないのか? 確かめたい、嘘だと思ってるなら出てこい。それであれこれ罰しようとか考えてないから、素直に出てこい」
数秒後、一人の女性冒険者が一歩前に出た。
それを皮切りにまた一人……また一人と自身の力に自信があるルーキーたちが前に出る。
最初のバカも含め……合計、十人。
「はっはっは!!!! やぱり冒険者はこうじゃなくちゃな、スティーム!!!!」
「うん、まぁ……そうだね」
闘技場での試合が盛んなレドルスでも同じような光景があったな~と思い……やや遠い目になるスティーム。
「っし、それじゃ……この場で掛かって来い」
「「「「「「「「「「……はっ?」」」」」」」」」」
「周りの椅子や机、床を潰さない程度に掛かって来いって言ってるんだ。来ないなら……こっちからいくぞ」
次の瞬間、最初のバカの腕を掴み、訓練場への入口へと軽く投げる。
「……はっ!!??」
バカが自分の身に何が起こったのか理解出来ない間に、次々と訓練場の入口へルーキーたちがぶん投げられ、結果として
十人のルーキーは無理矢理訓練場へと押しやられた。
「一応聞いておくけど、今の内の降参するやつはいるか?」
「はっ!!! 降参なんざする訳ねぇだろ!!!!!」
最初のバカと同じく、初っ端からその差を感じこそしたが、まだ十人の闘争心は全く折れていなかった。
「そうか。元気一杯ってことだな。それじゃ、纏めてかかって来い。勿論、武器を抜いて構わないぞ」
アラッドは素手の状態で一歩一歩近づいていく。
ルーキーたちの中には一対一の勝負を望む者がいるが、十人中六人が先程のやり取りで全員で戦うのが得策だと判断し、彼らは即席の連携とは思えないコンビネーションで仕掛ける。
(十人パーティーってのはあり得ない、よな? なのにこれだけしっかり連携が出来てるってことは、普段から一緒に訓練を行っている……もしくは、一緒に狩りを行う機会が多いってところか)
「ぅおおおらあああああッ!!!!!」
「ハッ!!!!!」
「せいやッ!!!!!!!」
「フレイムランス!!!!」
「ウィンドアロー!!!!」
複数の攻撃魔法が飛び交い、抜身の刃や鉄製の鈍器が遠慮なしに振るわれる中、アラッドは武器を抜くことなく全てを対処していた。
攻撃魔法には攻撃魔法をぶつけて相殺し、武器を振るう相手は攻撃を躱してからカウンター。
そして珍しく対人戦で流血させてしまわない程度に糸を使っていた。
故に、遠目から見ている者たちからは、不自然にルーキーたちが転ぶ、体勢を崩している様に思える場面があった。
「どうした!!?? もっと戦れるだろ!!!!」
「ったりめぇだッ!!!!!」
一対十という変則的過ぎる試合が始まってから数分、最初のバカも含めてルーキーたちはアラッドの噂が事実であると……少なくとも、自分たちが束になっても武器すら抜かせられないほど強いことが解かった。
この時点でアラッドに対する様々な疑問、感情は解消されたものの……だからといって、自ら挑んだ試合を投げ捨てられる程、彼らの心は脆くなかった。
(ん~~~……多分、皆僕よりも歳下だよね。それを考えると、皆アラッドの実力に疑問を抱いて絡みに行ってしまうぐらいには優秀だね。一人か二人は、実力だけならCランクに届いてもおかしくないレベルだ……コンビネーションも優れているから、Cランクのモンスター数体ぐらいなら倒せるかな?)
離れた場所から観戦しているスティームは冷静にルーキーたちの実力を観察していた。
ハッキリ言ってしまうと……勝負になっていないという戦況ではあるものの、それ相応の実力があるのだと把握。
(とはいえ……武器を使わずに倒したとなると、彼らの心は折れないかな?)
アラッドの噂では、全ての武器を抜いて強敵と戦っている。
一緒に行動しているスティームは魔法も体術も糸も敵対者にとって脅威となるな武器だと把握しているが、アラッドを全く知らない者からすれば、今回の結末に心が折れても仕方なかった。




