五百二十九話 休むつもりが……
帰郷当日は宴会に近い状態となり、鍛冶も模擬戦も行われず、二人とも体を休めていた……とはいえ、二人とも元気一杯な孤児院の子供たちに捕まり、これまで自身が体験してきた冒険譚を話すことになった。
「僕の冒険譚はこれまでだね。次は、アラッドの番だ」
既にアラッドの実績等を知っているスティームは先に自分の冒険譚を話し、子供たちのテンションが落ちない様にした。
「俺の番と言っても、俺はまだそこまで冒険してないんだけどな」
謙遜するアラッドだが、まず同じルーキーである冒険者をなんやかんやあって、冒険者ギルドから追放してしまう。
これだけで子供たちの反応は様々だが、盛り上がっているのは間違いなかった。
その後、特殊な自己強化を行えるオークシャーマンとの戦闘。
そして……幸運にも遭遇できたユニコーンとの出合いと、クロと黒いケルピーのバトル。
別の街にとある噂を耳にし、その街に訪れると明らかに普通のギルド職員ではない女性と出会う。
その人関係で色々と絡まれるが、どれも特に問題ではない……といった話題でさえ、子供たちはゲラゲラと大笑いする。
後日、耳にした噂に関連してるであろう、普通は覚えない闇魔法を習得しているミノタウロスとの激闘。
そして遂に噂の黒幕のアジトを発見し、突撃。
限界ギリギリまで追い込むことによって、Aランクモンスター……ドラゴンゾンビの撃破に成功。
黒幕を討伐することにも成功し、無事に噂の黒幕についての一件が終わった。
本当はその後にとある女性とのごにょごにょほにゃららがあるのだが、まだ子供たちには早すぎる為、割愛。
その後、アラッドに兄であり、侯爵家の次期当主であるギーラスに呼び出され、現在パーティーを組んでいるスティームと模擬戦を行う。
それから数日後、同年代の冒険者たちと盗賊退治を行い……アラッドやスティームではなく、ギーラスがかつてフールが討伐したAランクのドラゴン、暴風竜ボレアスの子である風竜、ストールと激闘を演じる。
自分が絡んでいないということもあり、二人の説明はとても熱が入っており、子供たちもそれはそれで大きく盛り上がる。
事後処理のあれこれが終わった後、闘技場での試合が盛んな街に訪れ、優秀な若手と十連戦を行う。
そして二十歳以下の戦闘者たちのみが参加出来るトーナメントに参加。
勿論、裏で行われた大人の事情は割愛。
二人とも参加したトーナメントということもあり、実際に戦った本人の感想と外から観ていた側の感想があり、これまた子供たちは興味津々な様子で話を聞く。
「そして、俺たちは決勝で戦ったんだ」
当時の戦況、心境を交互に話していく。
「あの瞬間、本当に寒気を感じた。このままだとやられると、本能が理性をというか……自分でつくった筈の決まりを破ったんだ」
スティームが赤雷を纏った瞬間、使わないと決めていた筈の狂化を発動。
子供たちの中で実際に狂化を使用したアラッドの戦闘光景を見た者はいないが、それでもアラッドの強力な切り札だという話は何度も聞いてきた。
そんな切り札を実力で……強制的に使わせたスティームに対し、子供たちは一気に尊敬の眼差しを向け始めた。
「結局試合には勝てたが、自分でつくってた決まりを破ってしまったからな……結果としては、俺の負けと言えるかもしれない」
試合に負けた本人であるスティームからすれば慰めにならない言葉ではあるが、まだそれなりに純粋である子供たちの反応は違う。
アラッドが試合には勝ったと明言したものの、結果として負けたと言える……かもしれないと口にしたのだ。
口にした本人にその意図はなかったが、それでも子供たちのスティームに対する期待は爆上がりである。
「その後、また面白そうな話を耳にしたんだ」
雷獣……当然、子供たちはどんなモンスターなのか知らないが、二人の説明からとんでもなく強く、恐ろしい事だけは分かった。
一人の青年とぶつかり合った後、一歩出遅れて先手を取られてしまう。
そして最後の一撃がギリギリ心臓に届かず、貴重な戦力がリーダーを庇ったことで、討伐隊は撤退。
ナイス過ぎるタイミングで二人は雷獣を見逃さず、キッチリ撃破した。
「アラッドさんたちは、何故その方たちと一緒に戦わなかったんですか」
当然ながら、二人が討伐隊と一緒に戦わなかった、仲間を庇って怪我を負いそうな人を助けなかった……その行動に対し、疑問を持つ子がいた。
しかし、子供の内から多くの大人と触れ合い、考えを耳にしてきた……ある意味英才教育を受けてきたため、その質問に負の疑問視はなかった。
「分かりやすく言うと……互いの信念、考えがぶつかったからだな。だからこそ、俺は最後まで手を出さないことが、クソイケメン優男先……エレムさんに対する礼儀、敬意だと思った」
「信念がぶつかったが故に……ありがとうございます」
「気にすんな気にすんな。とはいえ、ここで弱ってた雷獣を倒せてラッキーだったな……で終わらなかったんだ」
最後の冒険譚はまだ終わらず、ここからがクライマックスである。