五百十話 乱入厳禁
「そういえばアラッド、一応僕たち冒険者な訳だし、ギルドの依頼を受けておいた方が良いんじゃないかな」
「……それもそうだな。一つぐらいは受けておくか」
イスバーダンに到着してから数日後、二人はギルドで討伐依頼を受け、雷獣を探しながら討伐依頼のモンスターも同時に捜索。
「ねぇ、もしかしたらだけど、他の冒険者たちと喧嘩になったりするかな」
「喧嘩、か……そうなったら、赤雷を使うのか?」
「いやいやいや、さすがに使わないというか、そもそもまず喧嘩にならない努力をした方が良い気がするんだけど」
ごもっともな意見を否定する気はない。
だが、アラッドはそこまでして喧嘩にならない様に努力しようという気持ちが起こらない。
「そうだなぁ、多分だけど正義感が強い奴がいれば、俺たちに絡んでくるかもしれないな」
「正義感が強い人、か。冒険者にしては珍しいタイプの人たちだよね」
「冒険者の世間一般的なイメージを考えると、確かに珍しい部類だな」
職業的に荒くれ者なイメージが強く、実際のところ……強い正義感を持つ冒険者という存在は確かに珍しい。
「普通の冒険者であれば、俺たちの自分たちだけで倒して雷獣の素材を独占したいって気持ちは理解できるはずだ」
雷獣の素材、魔石は非常に高価な値段で取引される。
それこそ、五体満足の状態であれば、アラッドがこれまでに製作してきた赤龍帝や天魔の実際の値段と大差ない。
「スティームも、どうせなら自分たちだけで独占出来たらって思いはあるだろ」
「まぁ、そりゃ雷獣みたいな貴重なモンスターの素材となれば……ね」
「そうだろ。ぶっちゃけた話、それが普通だ。でも、世の中にはまるで騎士の如き振る舞いをする冒険者もいるらしい」
人伝に聞いた話……というには、あまりにも多くの冒険者から聞く機会があった。
「変な正義感に酔った連中だと、もしかしたら正面から衝突するかもな」
「衝突した場合、どうするつもりなんだい」
「雷獣と戦う前に変に消耗はしたくない。街中での衝突であれば、適当に言葉をぶつけ合って終わりだ。でもな……運良く俺たちと雷獣が先に戦ってるところに身勝手な理由で割り込んできたら……うかっかり殺してしまうかもな」
「ッ……そ、その気持ちは解らなくもないけど、程々にしてよ」
その眼に冗談はなく、本物の殺気が宿っていた。
(他の冒険者と衝突なんて勘弁してほしいけど……でも、この前似たような事が、僕が原因で起こってしまったし、あんまり強く言えないな~)
とはいえ、スティームもお目当てのモンスターと戦っている最中に他の同業者が乱入してきたら、ブチ切れるのは間違いなかった。
結局その日は討伐依頼のモンスターこそ発見して討伐することが出来たが、お目当てである雷獣を発見することは出来なかった。
「それっぽい戦いの痕はあったんだけどな」
「クロの鼻で追えなかったってなると、雨が降った後なのかもしれないね」
「そうなってくると手掛かりを利用して追跡する手段は難しそうだな」
「クゥ~~~ン」
「おっと、すまんなクロ。別にお前を貶してるわけじゃないんだ」
自身の不甲斐なさに対して悲しそうな顔を浮かべるクロの頭を撫でるアラッド。
「そういばさ、僕たちが得た情報の時点で雷獣はBランク冒険者たちと戦って、重傷を負わせながらも雷獣自身も逃げたんだよね」
「そうらしいな……それがどうかしたか?」
「頭の中に逃げるって選択肢があるってことは、僕達を見た時に……戦うじゃなくて逃走を選ばないかって心配があって」
「…………」
全く予想していなかった雷獣の選択。
スティームの言葉に、絶対にそれはあり得ないと口に出来ず、がっつり固まってしまうアラッド。
「……可能性は、ゼロじゃなさそうだな」
「そうだよね~。見つけた瞬間、囲むように動いた方が良さそうだね」
かなり無茶したとはいえ、Aランクモンスターをソロで討伐出来る怪物と、赤雷を操る双剣士。
加えてBランクのモンスターとAランクのモンスターに囲われては……逃げ出そうと思っても致し方ない部分はある。
「でも、この前クスリを使った彼を捕らえた時みたいに、雷は意味をなさないね」
「そうだな。そうなると、俺の糸が逃がさない様に捉える武器になるかもしれないが……雷獣は凄い俊敏だって聞いたことがあるからな~」
とはいえ、あれよこれよと不満や心配が零れたところで、自分たちだけで討伐して素材を手に入れようという気持ちは変わらない。
そして二人は討伐依頼の達成確認を行ってもらう為、ギルドの中へ入る。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
既にアラッドとスティームの容姿に関する情報が出回っているため、鑑定を使わずとも今ギルドの中に入ってきた二人があの噂の人物だと解かる。
(うわぁ~~~、凄いピリピリしてるな~。もしかして、今日も僕達が知らないところで、雷獣による被害が出たのかな?)
ファルとだけ行動してた時よりも多くの視線が集まるため、少々おどおどした雰囲気が出ているスティームに対し、アラッドは慣れきった表情で列に並び、依頼達成の確認を行ってもらう。
「こちらが依頼達成の料金になります」
「ありがとうございます」
素材の売却もちゃちゃっと終わらせ、即座にギルドから出ようとしたが……そうは問屋が卸してくれなかった。
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