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四百八十一話 多分そっちより多いよ

決して札束を片手に人を見降ろすようなキャラではない。


しかし……目の前の老人が行った行為に対して、笑わずにはいられなかった。


「確かにこれだけの白金貨……冒険者であれば、喉から手が出るほど欲しいってものだろう。でもな……あんたら、貴族だよな。それなら、俺が誰かぐらいは解ってるよな」


知らない訳がない。

パーシブル家の三男であり、先日学生の絶対王者を天辺から引きずり下ろした正真正銘の怪物。


「え、えぇ。勿論です。アラッド・パーシブル様であることは当然、解っております」


「そうか、それは良かった。こんなこと言って、知らないって言われたらただの恥ずかしい人だもんな」


受け流すメンタルは持っていれど、全くダメージが入らない訳ではない。


「あんたらが何を狙って俺に金を渡すのかは知らないが、生憎と金には困ってないんだ。なんなら、個人的に動かせる財産なら、あなた達の主人より多いんじゃないか?」


「「ッ!!!」」


アラッドが口にした内容は、捉え方によっては二人の主人を侮辱した形となる。


だが……アラッドが貴族の令息でありながら多数の新料理を開発し、更にはキャバリオンという新しいマジックアイテムの生産販売で儲けているという話は周知の事実。

そこに加えて、リバーシなどの娯楽用品関連でも儲けている為、言葉にした通り……個人的に動かせる金額に関しては、二人の主人よりも上。


「だからな。この金は要らない。どうやって集めたのかとかは特に訊かないし、あんたらの自由にすれば良い…………まっ、多分あれだろ。この大金を渡す代わりに、俺が参加しようとしている大会を辞退させたいんだろ」


「「……」」


「無言の返答は肯定と同じですよ」


何故そこまでの大金を積んでまで自分を辞退させたいのか、それは解らない。

とはいえ、読心術など使えないアラッドでも、おおよそのことは把握出来た。


因みに……正確には参加者の一人である騎士が、父親にとある武器をねだったことから始まる。

ただ子供のようにごねるのではなく、しっかりと騎士としての成果を上げての頼み込み。

しかし、それなりの値段であり……息子が持つに本当に相応しいのか、非常に悩ましい。


故に、父親は二十歳以下の若者だけが参加出来る大会というイベントを闘技場側に提案。

優勝賞品も提案者側が用意していることもあり、闘技場側は迷うことなく承諾。


絶対に高品質の武器をねだった騎士が優勝出来るとは限らないが、対人戦の実力や技術を考えれば、決して不可能な

話ではない。


だが、そこに十五歳で絶対王者であるフローレンス・カルロストを討ち破った化け物中の化け物が参戦するとなれば話は別。

絶対王者を破ってから半年も経たないうちにBランクモンスターをソロで……挙句の果てには、Aランクモンスターをソロで倒したという話も出ている。


真偽のほどは不明であれど、このままでは絶対にその騎士が優勝出来る可能性はないに等しかった。


「何故俺を辞退させたいかまでは解らないが、俺は大金を積まれたからといって、辞退するつもりはない」


ハッキリとそう断言する怪物。


そんな怪物に対し……反射に近い感覚で帯剣しているロングソードの柄に手を伸ばす騎士。


「戦りますか?」


「ッ!!!!」


当然、その鋭く研ぎ澄まされた戦意に気付かないアラッドではない。


「俺としては、あなたみたいな強い人との戦闘は大歓迎です」


「ッ……申し訳ない。むやみに戦意を向けてしまったことを謝らせていただきたい」


彼は反射的に動いてしまったものの、決してアホでバカで間抜けではない。

ここで当主の確認も取らずアラッドと戦うような事態に発展してしまえば、どのような迷惑をかけてしまうか……ある程度想像出来てしまう。


「…………分かりました」


アラッドとしてはやや残念な結果ではあるが、矛を収められたのであれば、これ以上事を荒立てるのは下策。

大人しく謝罪を聞き入れた。


「本当にあなた方が考える人物のことを思うのであれば、壁を越えるには足りなかったと現実を教えるのも一興だと思いますよ」


最後にそれだけ告げ、アラッドは結局一杯もカクテルを呑まずにバーから出て行き、宿へと戻った。


(あっ、そういえば裏でスティームに手を出せばどうなるか解るよな、って脅し忘れてたな…………クロをスティームに付けた場面を見てれば、それとなく解ってくれてるか?)


クロが実はとんでもないモンスター……という情報は、フローレンス・カルロストとの決勝戦を観ていた者であれば、誰しもが知っている。


現にあの戦いでクロは目立った傷を負っておらず、もしアラッドが途中で退かせなければ、最後の最後は……蹂躙に近い状態になっていた可能性が非常に高い。


そして少しでもスティームに関して彼らが調べれば、スティームがアルバース王国の民ではなく、ホットル王国貴族の令息であることが解かる。

そんな彼に手を出そうとすれば……最悪の場合、国際問題に発展しても全くおかしくない。


最悪の結末が解らないほどバカな二人ではないこともあり、結局老人と騎士がこれ以上どうこうしようとすることはなかった。

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