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四百七十話 見上げるほどの存在

『一回戦目、決着ぅうううううううううッ!!!!!! まさに圧勝、まさに圧倒!!!! 汗一つかかずに完勝!!!!! まずは一勝、勝ち星を得たアラッドッ!!! さぁさぁ、激戦はまだまだこれからだぁああああっ!!!!』


アラッドとしては観客と対戦相手に気を使い、茶髪青年の全力を受け止めたつもりだったが……実況、そして観客たちにはアラッドの完勝しか意識していなかった。


(……まぁ、楽しんでくれてるみたいだし、別に良いか)


当然、一回戦目を二回戦目に出場する冒険者は観ていた。

茶髪青年と同じく……アラッドに対する怒りが顔に浮かんでいた。

ただ……それよりも、アラッドをどう倒すかのビジョンが……全く浮かんでこない。


それでもここで逃げだすなんて真似は絶対に出来ない。

男は無理矢理足を動かし、リングへと向かう。


先程と同じく入場者の自己紹介が行われる。

アラッドとの差はあれど、集めた情報から行われる二人目の挑戦者の紹介も熱い。


「始めぇえええっ!!!」


憎い敵を倒す為のビジョンが浮かばないまま、二試合目が開始。

何はともあれ、男は全力でアラッドを倒しに掛かる。


しかし……戦闘が始まってから数十秒後……アラッドの表情に、先程までとは確実に違う変化が起きていた。


(っ!!! なんだ……なんなんだよ、その表情はぁああああアアアアアアアッ!!!!!)


アラッドの顔に浮かんだ表情……それは、つまらないという……圧倒的に挑戦者を見下すものだった。

勿論、本人に見下しているという意識はない。意識はないのだが、つまらないと思っているのは事実だった。


(なるほど……アラッド君があんな表情を浮かべるのは、解らなくもない。解らなくもない……だが、まだ精神が未熟な状態を考えると、それもしょうがない)


何人もの戦闘者たちの表情を見てきたからこそ、審判は直ぐに何故アラッドがその様な表情を浮かべているのか解ってしまう。


全力で倒しにいく……その姿勢は先程の茶髪青年と変わらない。


しかし、解る者には解ってしまう。

先程の戦いと比べて……明らかに及び腰になってしまっている。

どうすれば勝てるのか解らない。自分がこの戦いに勝てるイメージが……ビジョンが浮かばないからこそ、勝負を……命を懸ける場面が見つからない。


(確か、昨日俺に絡んで来た連中の一人だよな…………頼むから、あまりがっかりさせるなよ)


自分に対して、数の有利があったとはいえ絡んで来た。

実力云々は置いておき……メンタルに関しては同世代の中でも頭一つ抜けている。

アラッドはそこだけには期待していた。


その期待通り、一人目の挑戦者に関しては心の底から血肉湧き踊る戦いにこそならなかったが、不満という濁りはなかった。


だが……目の前の少年からは、茶髪青年ほど一歩踏み出す勇気も、死線などクソ食らえだと吐き捨てられる狂気すら

感じない。

ただただ強敵を相手に、縮こまっている意気地なし。


(もう……終わらせても良いか?)


アラッドの表情に怒りを感じて再度攻撃を仕掛けるが、その動きは怒りによって悪い意味で雑味が現れ……とても戦う気が起きないお粗末な動きだった。


「はぁ~~」


あろうことか、アラッドは戦闘中にため息を吐いた。

その事実に再度怒りがこみ上げる挑戦者だが、ため息を吐きながらも動いており……槍による突きを回避し、腹に手を当て……軽く押し出した。


「ッ!!?? あっ、ぶねっ!!」


突っ張りぶちかましたわけではないので、挑戦者には大したダメージは入っておらず、骨折どころか内出血すらしていない。


とはいえ、あと一歩のところでリング外に転げ落ちそうになったのは事実。


「……死ぬのは怖いか」


「はっ!? いきなり、何言ってん、だ!」


「お前がつまらないから、わざわざ挑発してるんだよ」


「ッ!!!???」


もう何度目になるか分からない怒りが体の奥底から湧き上がる。

それでも……怒りが湧き上がるだけで、やはりアラッドに勝利するビジョンは浮かばない。


ぶちのめしたいのに、まだ動ける体は動かない。


「恐れを感じるのもビビるのも、それはお前の勝手だ。でもな……お前が、お前らが俺の立場に、強さに納得がいかないからって喚いたからこそ、こんな派手で大勢の観客たちが集まる舞台が出来上がったんだ……つくった張本人たちの一人なら、せめて命を投げ出してでも一矢報いるぐらいの根性を見せてくれよ」


依然として見下す冷たい目は変わらない。


しかし……そんな冷たい目で思いを口にしたからこそ、本能的に怯える第二の挑戦者に届いた事実があった。


(…………クソが。クソが、クソが、クソが……クソがぁああああああああああああっ!!!!!!)


アラッドに対して怒りが消える訳がない。

そしてこれらかもその感情が消える可能性は限りなく低い。


ただ、アラッドが感情を偽らずに思ったことを口にしたことで……挑戦者の立場から見て、アラッドがどういった人物なのか……嫌でも目を逸らせない程自覚してしまった。


「ぶっ殺すっ!!!!!」


「はっ! やれば出来るじゃないか。そうだ、それで良いんだよ」


第二回戦目が始まって……アラッドは初めて笑みを浮かべた。

ここから挑戦者の真価が問われる。


本当に現実を認められるのか、殻を破ることが出来たのか……それを決めるのは戦っているアラッドだけではない。

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