四百七話 感覚の不一致
依頼を受ける、アジトを探すフリ、マジットとの模擬戦を行う日々を繰り返し……約三週間後、遂にその日がやって来た。
「緊張しているのかい、アラッド君?」
「いや、そこまで……緊張というか、危機感はあいつ……フローレンス・カルロストと戦ってた時の方が大きかった」
まだ戦闘は始まっていないが、現時点では学生大会の決勝でぶつかった女王との戦闘の方が恐ろしい。
それが率直なアラッドの感想だった。
「君が危機感を感じていたのか……ちなみに、どの辺りで強い危機感を感じたんだい」
「聖光雄化を使った時と、光の精霊を召喚した時だな。ただ、その二つよりも半分とはいえ、精霊同化を行った時は……鳥肌が止まらなかった」
その時の光景を思い出せば、今でも体が震えてしまう。
フローレンス・カルロストとの戦闘時、アラッドは震え……恐ろしさこそ感じていたが、同時に冷静さも兼ね備えていた。
故に、精霊同化が行われていない部分にマリオネットを使用することで、一気に形勢逆転させた。
「……できることなら、是非ともその戦いを特等席で観たいものだね」
「俺はあの人のこと好きじゃないんで、当分は遠慮したい」
二人は決戦前の緊張感を解くために会話を続ける。
周囲の討伐戦に参加する者たちも同じように会話をする、もしくは自分なりの方法で緊張感を和らげていた。
(ん~~~……あれだな、ルーキーたちに向けられる視線よりはまだ良いな)
今回の討伐戦では、マジリストン以外の街からも同時に進行し、墓荒しの黒幕の拠点であろう地点に向かう。
そしてマジリストンからは、冒険者ランクでCランク以上の者たちが参加。
参加者の中にはアラッドと同じ現役の冒険者や、マジリストンの領主に仕える騎士や魔術師。
学園の教師として勤務しているハイレベルな実力を持つ魔術師、一部の傭兵などが参加している。
そんな強者たちの多くが……アラッドを強くライバル視していた。
アラッドを潰したい、マジットの前でコテンパン叩きのめして、自分の方が上だと証明したい……といった負の感情ではないため、多少チクチクはすれど猛烈な不快感はない。
「ふむ…………喧嘩でもしたのか?」
「別に向こうから喧嘩売ってきた訳じゃないし、向こうも俺もそんな子供じゃない。ただ……感覚の不一致ってやつだな」
「なるほど? っと、そろそろだな」
今回の討伐戦に参加する者たちのトップが現れ、参加者たちに気合を入れ、三十人ほどの部隊が出発。
そして当然……道中では、マジットたちの事情など知らないモンスターたちが遠慮なしに襲い掛かる。
「よっ、と」
しかし、DランクであろうがCランクであろうが関係無く、一瞬だけ集中力を百パーセントまで高めたアラッドが瞬殺していく。
「こいつらの素材、俺が貰っても良いですよね」
「あ、あぁ。勿論だ。俺たちは何もしてないからな」
「どうも」
モンスターの動きを正確に見極め、アラッドは生み出した複数の糸を一本に集約させ、耳に侵入。
そして中でバラし……頭の中をぐちゃぐちゃにし、瞬殺。
いったいどうやって倒したのかを本人から聞いた者たちは、その瞬殺方法に頼もしさと恐ろしさを感じずにはいられなかった。
「先輩たちは、討伐当日まで体力も魔力も温存しといてください。俺のやり方は、殆ど労力がかからないんで」
アラッドの経験上、数が十近くではなくランクがB以上の相手でなければ、集中力を極限まで上げれば以前ゴブリンを瞬殺した方法で殺れる。
(……なんて頼りになる後輩なんだ)
(見た目だけじゃなくて、心までイケてる……クソっ!! あいつら、ちゃんとこいつの中身知ってるのか!?)
(むぅ、あのマジット姉様にため口で話すだけはある……悔しいが、認めざるを得ない)
アラッドよりも歳上の戦闘者たちは、その強さと顔と自分たちを気遣う中身。
三拍子揃った人生の後輩に……信者として、嫌味の一つも出てこなかった。




