四百六話 一見、意味不明
「っ……流石だな」
「アラッド君は剣などと比べて、魔法はそこまで得意な部類ではないだろ。であれば、さすがに負けられないというものだ」
「はは、別に苦手って訳じゃないんだけどな」
魔法を発動するのに、詠唱などという面倒なものは必要ない。
しかし、発動するのに個人の魔力操作が関わり、発動までの時間が変化する。
加えて移動しながら魔法を発動するという芸当は、三流や四流の魔術師では不可能。
一流に届かない二流、一流半の域まで到達すれば、当然の技術として扱えるようになっている。
世の中にはそれが出来ずとも恐ろしい戦闘力の高さを持つ魔術師も存在するが、移動しながら魔法を発動するという技術が出来なければ、一流の魔術師とは言えない!!! という強い考えを持つ一部の者たちが存在する。
「いや、確かに並みの実力ではないな。魔法を発動するまでの速度、発動した魔法を操る技術。魔法使いが本職の者が嫉妬する腕だ」
マジットの言葉通り、周囲で二人の模擬戦を観戦していたルーキーたちの中で、猛烈にアラッドの動き、魔力操作技術に嫉妬する者たちが多くいた。
「……そこまで褒められると、それはそれで照れるな」
褒められて嬉しいという気持ちはあるが、それでも若干悔しいという気持ちの方があった。
(得意ではない、か……多くの属性を扱えて、初級から中級レベルの魔法を連続で発動、そして体に纏った魔力斬撃、弾丸にして放ってたんだが……それらを余裕で弾かれたのは、少しやられた感があるというか……いや、上には上がいるって話だな)
負けを認めなければ上に上がれない。
まだまだ自分が若造だということを思い出し、精進することを誓う。
「それにしても、本当に対応が見事だったというか……慣れ過ぎてないか?」
「徒手格闘で戦う私の様なタイプにとって、長槍や弓、魔法をメインに戦う相手は天敵と言っても良い。故に、現役時代はそれらにどう対処すべきかをよく考えていた」
「なるほど……」
当たり前のことを、当たり前のように実行したまで。
そう言い切る表情を見て……アラッドは改めて敬意を持った。
「俺が言うのは……少しおかしいかもしれないが、疲れなかったのか?」
「ふむ…………うん、言いたいことは解った。多少そういう思いがあったのは否定しない。だがな……」
次に口に出される言葉に、訓練場にいる冒険者たち、全員の意識が集中した。
「私はそんな辛さよりも、仲間が死ぬ方がよっぽど辛い。だから、いくらでも頑張れた」
周囲の冒険者と比べて、ルーキー時代から頭一つ抜けた存在だった。
そんなマジットの周りには、当然の様に同じく頭一つ抜けた存在たちが集まり、将来有望なパーティーが結成。
順風満帆に進むかと思われたが、悲劇というのは強さや身分関係無しに襲い掛かる。
仲間であるパーティーメンバーが死んだ。
その経験は一度だけではなく、知り合いや友人の冒険者という関係者も含めれば、二十人以上の者が死んでいる。
「だからこそ……奴は、私の手で倒す」
先日、ギルド内がピリピリしていた要因が、冒険中に命を落とした人物の遺体が盗まれたいう内容だった。
「……サポートするよ」
「ふふ。アラッド君のサポートか……少し期待してしまうな」
墓荒しの黒幕らしき場所を見つけた瞬間、自身とクロの切り札を解放し、自分たちだけで潰そうかとほんの少し悩んだ。
だが、今目の前の討伐に燃えるマジットを見て、先走らなくて良かった、心の底から思うアラッドだった。
そして本日の模擬戦が終了した後、アラッドは再び同世代のルーキーたちに囲まれ……先日の男性冒険者と同じく、金貨二枚を渡されて教えを請われた。
(面倒……って思うのは良くないな。ちゃんと誠意は見せてくれてるんだから)
それは現実的に不可能という問いもあったため、全てに応えることは出来なかったが、答えられるだけ質問に答えた。
それらの答えに、アラッドというフィルターを除けば……その方法、道しかないと納得せざるを得なかったマジット信者たち。
「……ある意味変態だな」
どう見ても自分たちと年齢が殆ど変わらないのに、思考レベルが明らかに違う。
そう感じた冒険者の一人が、ぼそりと「ある意味変態」という一見意味不明なワードを呟いたが、その場にいる全員がその言葉に納得した。




