四百二話 響き渡る轟音
空気が揺れる。
そう表現するのが一番正しい轟音が、訓練場に響き渡った。
思わず観戦していた者たちが耳を塞いでしまうほど、その轟音は重く激しく……訓練場を越え、ギルドのロビーにまで届いた。
そして轟音を生み出した二人の戦闘者たちは……どちらかが吹き飛ぶことはなく、互いに譲らない結果となった。
「流石だ。本気で打ち込んだんだがな」
「それはこっちも同じだ」
最後の最後まで、制限を掛けた状態では、互いに一歩も譲らない戦況。
その結果が更に二人の闘争心を掻き立てることになるが、アラッドとマジットも今回の模擬戦がどういったものかは忘れておらず、その域を超えることはない。
「次はロングソードか槍か……それとも短剣にするか? 鞭とかはちょっと無理だが……あっ、ハルバードなら使えるぞ」
「私もそれなりに使えるが、どうやらアラッド君も同じ様だな」
「俺の才は武器の類ではないからな。一応拘りはあるが、それ以外の武器に関しても学ぼうって気持ちがあったんだ」
「ふむ、重要なことを幼い頃から理解していたんだな」
アラッドの強さの一端を知り、笑みを浮かべるマジット。
そんな笑みを向けられるアラッドに嫉妬する信者たちではあるが、現在目の前の見せ付けられた光景が頭から離れるわけがなく、ただ見るだけしか出来ない。
そして数分間休憩を挟んだのち、アラッドは槍を使ってマジットとの模擬戦に挑むが……今度は槍使いの信者が武道家信者と同じ衝撃を受けた。
(ろ、ロングソードと素手がメインの武器じゃないのか!?)
才能という面を考えれば、アラッドのメイン武器は糸。
故に、多種多様な武器を組み合わせることが出来るため、アラッドは時間が許す限り、多くの武器に触れていた。
リンが様々な武器を造ってくれることもあり、実戦での訓練に困ることもない。
そして槍の次は短剣の二刀流、大斧にバトルアックス。
最後はロングソードと魔法……様々な武器を用いて戦うアラッドに対し、マジットは最後まで己の五体と魔力、そして一部の強化スキルだけで戦い続けた。
「ふぅ、ふぅ……今日は、ここまでにしようか」
「はぁ~~、そうだな」
休憩を挟みながら約一時間半……ようやく二人の模擬戦は終了した。
「ありがとう。お陰で現役の時の勘が戻った」
「それは良かった。にしても……本当に凄いな」
「あの女王を倒した君にそう言ってもらえるのは光栄だよ」
アラッドが伝えた褒め言葉は、決してお世辞ではない。
(いや、本当に凄い。対刃の戦況であそこまで丁寧に対応出来るものか? 条件はかなり五分だと思うんだが……本当に、なんで引退したのか解らないぐらい強いな)
模擬戦の最中、アラッドは何度か武器を盾にマジットの打撃をガードした。
そのチャンスを起点に戦況が崩れることはなかったが、それでも回避ではなくガードしたのは事実。
それに対し……マジットも一度アラッドが振った刃に触れた。
普段ほとんど使わない、ハルバードを使った模擬戦の最中に振った斬撃ではあるが……アラッド本人も会心の一撃と思える一級品だった。
そう思ったと同時に、この斬撃はさすがに不味いと予感。
タイミング的にマジットの回避は間に合わない。
ガードするにしても、会心の一撃はガードブレイク出来るほどの威力とキレを持っていた。
(俺もあれは練習しているけど、あんなに上手くやれる自信はない)
会心の一撃に対し、マジットが取った対処方法は受け流し。
両手に魔力を纏っているとはいえ、その防御を貫通するほどの威力とキレを持つ斬撃に対し、マジットは綺麗に受け流した。
当然、アラッドはその一撃に体重を乗せていたため、体勢を崩したが……体が崩れると同時に、本能で蹴りを放っていた。
まさに本能が放ったと言える一撃のお陰で戦況が崩れることはなかったが、間違いなく肝が冷えた瞬間であった。




