三百五十九話 処女でも無理?
「ユニコーンの角の納品依頼、ねぇ……」
目に留まった依頼書の内容は、Bランクモンスターであるユニコーン。
基本的に人に危害を加えず、その外見からモンスターではなく神獣だという説を唱える者もいるが、冒険者たちからすれば、とりあえずモンスターであることに変わりはない。
発見難易度の難しさと、外見からは解らない戦闘力の高さ。
それらが組み合わさり……一部では、Aランクに認定しても良いのでは? という声も上がっている。
「おっ、その依頼を受けるつもりなのか?」
「いや、珍しい依頼だなと思って」
声を掛けてきた先輩は、アラッドにその依頼書について軽く説明した。
「その依頼は所謂塩漬けされた依頼書だ」
「塩漬け……ということは、張り出されてから半年ぐらい経ってるんですか?」
「俺の記憶が正しければ、一年は経ってると思うぞ」
「一年!?」
塩漬け依頼の中では珍しい部類ではないが、まだ冒険者としてルーキーのアラッドとしては、その月日に驚かずにはいられなかった。
(……よく諦めないな)
諦めたらそこで試合終了。
アラッドも気に入っている名言ではあるが、ただ待つ時間としては、長過ぎる時間だと感じる。
「この依頼の主は、どうしてもユニコーンの角が欲しいって訳じゃねぇみたいだからな?」
「どうしても欲しいから、一年以上経っても待っているんじゃなくて?」
「錬金術師として、そこそこ成功してる奴だ。俺や仲間も偶に世話になってる」
「えっと……それなら、単純に研究材料や、錬金術の素材として欲しいというだけだから、いくらでも待てるってことですか?」
「そういうことだな」
先輩冒険者の言う通り、依頼主の錬金術師は特に何かに困っている訳ではない。
なので、この先二年三年……五年先であっても待てる。
「だから、この報酬金額も嘘じゃねぇんだよ」
「……報酬金額は、それ相応で魅力的ですね」
「だろ」
達成金額は、白金貨三十枚。
ユニコーンの角の希少性を考えれば、Bランクモンスターの素材とはいえ、妥当な金額と言える。
「俺も一瞬は受けようと思ったぜ。でもよ、今まで訊いてきた話を思い出すとな~、中々受けようとは思えねぇんだよな」
「目撃情報がある場所は、ゴルドスからそれなりに離れてますからね……それに、周辺に生息してるモンスターの
強さも、並ではないですよね」
「おっ、それも解るか」
「ある程度ですけどね」
目撃情報の周辺に生息するBランクモンスターは、アラッドが考えている通りユニコーンだけではない。
その他にも強敵は生息しており、ユニコーンは非常に警戒心が強く、そもそも戦えるかが怪しい。
一説には、処女の頼みであれば自身の角を差し出す……と言われているが、全く確実性がないため、仮に処女の冒険者が依頼に同行したところで、絶対の保証はない。
「どうするんだ、受けるのか?」
「……他に面白そうな依頼がないんで、受けるのもありかなって思ってます」
「マジか……この依頼を受けるってなると、最低でも一週間は……あっ、アラッドの場合はそうでもない、か」
クロという見るからにそこら辺のモンスターとは格が違う従魔が、アラッドの仲間であることを思い出した。
「でも、最低数日は……やっぱり一週間ぐらいは掛かるよな。受けるにしても、もう少し休んでからの方が良いんじゃないか」
「昨日先輩たちにたくさん料理や酒を奢ってくれたんで、十分休めましたよ」
「あ、そうか……まぁ、それなら良いんだけどよ」
一般的な冒険者からすれば、あり得ないスケジュール。
しかし、先日の戦闘では特殊な個体である強敵、オークシャーマンと戦った。
その戦闘を終え、帰ってきてから先輩たちに飯を奢ってもらい、大浴場で汗を流してぐっすり寝れば……アラッド的には十分休んだことになっていた。




