三百四十三話 その結果が、これ
「決闘なんだろ。それなら、お前が負けたらギルドから除籍、再登録も出来ない。それぐらい背負ってもらうぞ」
「っ!!」
まさかの条件に、少年は息を詰まらせた。
自分が決闘を申し込んだ以上、相手からの要求を拒否するのはプライドが許さない。
アラッドの提案は生死にかかわる訳でもないので、周囲も止めに入らない。
冒険者ギルドから除籍され、再登録も出ないというのは、確かに重い条件。
重いが、貴族を……騎士の踏み抜いてはいけない部分を踏んでしまったことを考えれば、これでも軽いと言える。
「どうした? さすがにギルドから除籍され、再登録出来ないのはキツイか? なら、別に決闘を撤回しても構わないぞ」
正直、一発ぐらいぶん殴ってやりたい。
怒りはそう簡単に消えないが、目の前の少年は物事を俯瞰の視点から考えられない、感情的な子供。
自分とは違い、まだまだ幼い。
それでも……一発ぐらい殴っても許されるだろ! という思いを抑えるアラッド。
「ギルドから除籍されれば、無職になるからな。まっ、他にも就職先はあるかもしれないが、一時無職になることに変わりはない」
ギルドから除籍される例はそれなりに珍しい。
何かやらかせば、基本的に恨みを買って殺されるか、牢屋にぶち込まれるかのどちらか。
ただ……除籍されると、珍しいこともあり、圧倒的なスピードで広まっていく。
そうなると、中々再就職も厳しくなる。
「どうするんだ」
「っ!!! 俺が、逃げる訳ないだろ!!!!!」
「……そうか」
決闘宣言を取り消しても構わない。
それはアラッドからの、最後のチャンスだった。
ここで本当に決闘を取り下げれば、糸を……家族を馬鹿にした件について、見逃すつもりだった。
しかし、そのチャンスを不意にしたのは少年自身。
「あんたら、こいつの言葉を聞いたよな」
アラッドと目が合った冒険者たちは、全員顔を縦に振った。
「……こいつの処遇、よろしくお願いします」
「は、はい!! 畏まりました!!!」
近くにいた受付嬢は、怒れる怪物ルーキーからの言葉に即答。
「それじゃ、訓練場に「いや、ここで良い」はっ?」
「ここで良いって言ったんだよ」
冒険者同士の決闘とは、基本的に冒険者ギルドの訓練場で行われる。
「バカか。こんなところで決闘したら、床とテーブルが壊れるだろ」
「そうはならないから安心しろ」
「……頭大丈夫か?」
呆れた表情をする少年だが、主導権はアラッドにある。
この決闘はアラッドの考え次第で消える。
「安心してください。派手に壊したりしないんで」
「ど、どうぞ!」
「って訳だ。さぁ、やろうか。言っとくが、別に真剣を使っても構わないからな」
体から発する威圧感だけで物事を進め、ゴルドスの冒険者ギルドの歴史上、初めてロビーで決闘が始められることとなった。
受付嬢が二人がその場での決闘を許可したことで、他の冒険者たちは二人から一斉に距離を取った。
少年は「マジかよ、本当にこの場で始めんのか!?」という顔をしてるが、決闘相手であるアラッドが歩を進め始めた。
「ちっ! 強者気取ってんじゃねぇぞ!!!!」
アラッドの言葉に従う訳ではないが、少年は今度こそ本当に得物を抜き、斬りかかった。
「は?」
突然、視界が何かに覆われた。
次の瞬間には体が後ろに倒され、そのまま地面に叩きつけられた。
「が、はっ!!??」
「これで、終わりだな」
自分が手に持っていた筈のロングソードがなく、何故かアラッドの手に握られ……剣先は自身の首元に突き付けられていた。
「ま、まっ!?」
「待たないぞ。油断していた、俺の実力はまだまだこんなものじゃないとか、そういう言い訳はどうでも良いというか、意味がないというか……仮に全力を出せても、結果は変わらないから」
Dランクモンスターを余裕で倒せる力がある。
その情報だけでも、全力を出さなければ勝てない相手だというのは理解出来るはず。
少年も当然その情報は知っていたが、ここでもまだ自分に都合良く解釈していた。
その結果が……除籍と追放が掛かった決闘だというのに、本当に何も出来ず終わってしまった。




