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スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす  作者: Gai


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三百四話 その余裕を消す

リングに上がると、そこには弟であるドラングがいた。


アラッドに向ける眼は……とても鋭く、真剣であることが解る。

そんな弟からの感情に、アラッドの口角が少し上がった。


「おい、何笑ってるんだよ」


「武者震いならぬ、武者笑いってやつだな」


「……何言ってるんだ?」


兄が何を言ってるのか解らず、首を傾げるドラング。


「いや、なんでもない。バチバチに戦おうぜってだけだ」


「…………必ず、ぶっ潰す」


「なら、俺も負けじとぶっ潰す」


ここで言葉によるやり取りは終了し……ついに、兄弟バトルが始まる。

このバトルにレイたちだけではなく、担任のアレク。


二人の家族であるフールとリーナ、アリサもドキドキしながら注目している。


「それでは、始め!!!!」


開始と同時に二人は身体強化を使い、互いにロングソードを振るって吹き飛ばそうとする。


結果は……ややドラングが押された。

しかし、アラッドの予想以上にドラングは持ちこたえた。


(もっと吹き飛ぶかと思ったけど、何が変わった?)


先日の二回戦で、ある程度ドラングの力は把握していたつもりだった。

それでも、今斬り合った瞬間……先日とはやや違うと確信。


その違いに……またもや口角が上がってしまう。


「おらっ!!!」


「嘗めんな!!!」


先日決めた通り、ドラングとの戦いに糸を使うつもりはない。

それどころか、魔法すら使わない。


純粋に剣技だけで戦いたいと思っている。


その気持ちを知ってか知らずか、ドラングは先日までの戦闘スタイルとは違い、所々で攻撃魔法を使ってこない。


「シッ!!!」


下から切り上げると見せかけ、手首を返して袈裟掛け。


「よっ」


「はっ!!!」


「うおっ!?」


体重が乗っていない斬撃が弾かれることは折り込み。

弾かれても体勢を崩すことはなく、本命の突きをぶち込む。


「ふんっ!!!」


「ちっ!!」


だが、アラッドは圧倒的な反応速度で躱し、横から斬撃を返す。


しかし……それも読んでいたのか、踵の力を使って跳び、見事回避。


(回避できても転ぶかと思ったんだが、体の使い方まで上手くなってるな)


踵の力で跳んで回避……だけでは、着地に失敗する可能性がある。

だが、ドラングは空中で体勢を変え、転ぶことなく着地。


そこで二人の剣戟は止まり、観客たちからは二人の攻防に拍手が起こった。


割れんばかりの歓声とは違うが、普通ならこの状況に幸福感を感じる……そんな状況であっても、二人の意識に自分たちへ向けられている盛大な拍手など……全く入っていなかった。


(もう少し……ギアを上げても良さそうだな)


次はどう攻めようか。

そう考えているアラッドとは反対に、ドラングの頭には先日アレクから伝えられた言葉が蘇る。


「君は確かに成長した。でも、アラッドが君より格上だという現実だけは忘れてはいけない。それをほんの少しでも忘れたら、勝機は確実に消える。そういう戦いになるからね」


本日、本当に久しぶりに剣をぶつけ合い……担任の言葉が事実だと、再確認させられる。


(まずは、あいつの面から余裕を消さねぇと)


大会で戦ってきた相手の中に、必死ではなかった生徒など、一人もいない。

何故か?


それは、全力で自分を倒しにきているから。


ドラングが中等部の頃からそれなりに有名だったこともあり、上から目線で戦う者などいなかった。

だが、目の前の兄はどうだ?


兄弟だからこそ、嫌でも解る。

目の前にいる兄は、自分との戦いを楽しんでいる。


そう……自分との戦いに、楽しむ余裕がある。

その現実に怒りが爆発しそうではあるが、無駄にキレても仕方ない。


アレクから教わり、今までの経験からもそれは解っている。

要所要所で発揮しなければ、意味のない感情になる。


「ふぅーー……ッ!!!」


脱力を上手く発揮し、再びアラッドへの攻撃を開始。

止まっていたところで、成果は発揮できない。


勝てる可能性が……一矢報いる可能性すら一パーセント以下でも、諦めることは出来ない。

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