二百五十九話 アラッドだからこそ引き出した
アラッドは残りの受験生の戦いを見ず、試験会場から出た。
そして二人と待ち合わせ予定の場所に向かい、少し経った後、二人と合流。
「どうだった?」
そう尋ねると、まずはアッシュが機嫌良く返事した。
「上手く戦えたと思います」
「そうか、それは良かったな。んで、シルフィーは……だ、大丈夫か?」
明らかに気落ちしている。
集合場所に到着する前から顔が下を向いており、ぱっと見試験結果が悪かったように思える。
「……倒せませんでした」
「え?」
「だから、試験監督の相手を倒せませんでした!」
シルフィーが口にした言葉に……アラッドはやや呆れた。
(そんな理由でテンションがた落ちだったのか)
アラッドはてっきり、結局あまり緊張がほぐれず、自分らしい戦いが出来なかったのかと思った。
しかし実際のところはそんなことはなく、非常にシルフィーらしい動きで試験監督と戦い、好成績を叩きだした。
「アッシュ、シルフィーは良い戦いか出来てたんだな」
「はい。試験監督の人も驚いてました。他の受験生と比べても非常に良い戦いを行えてました。筆記試験でよほどヘマをしていなければ、シルフィーが落ちることはないかと」
「だよな。そういう訳だからシルフィー、あんまり気落ちするな」
「でも、倒せなかったんですよ!」
「そりゃ試験監督さんたちの立場的に、受験生に負けるわけにはいかないだろ」
中等部、高等部の試験監督など関係無しに、いくら才能ある子供たちとはいっても、子供相手に負けられないという思いはある。
「けど、アラッド兄さんは勝ったんでしょ」
「別に勝ってないぞ」
「「え?」」
アラッドの言葉に、シルフィーだけではなくアッシュまで驚いた。
どういった内容だったのかを説明し、アッシュは何故アラッドが試験監督との模擬戦に対して勝ちにいかなかったのか、直ぐに納得した。
「なるほど。それなら納得です」
「なんで?」
アラッドの行動に、シルフィーはいまいち納得出来ていなかった。
「アラッド兄さんは最初から試験監督の全力に近い力を引き出させたんだよ。それだけで、アラッド兄さんが他の受験生とはかけ離れた存在だという証明になる」
アラッドの戦い以降、勿論試験監督の教師たちが受験生との模擬戦で本気に近い実力を出すことはなかった。
「その結果、トレントの木で作られた木剣が両方とも折れた。つまり、アラッド兄さんの力は試験監督の全力に近い力で負けてないってことになるでしょ」
「……そういうことね」
時間が掛かったが、シルフィーもアラッドの行動に納得した。
「他の受験生を嘗めてる訳じゃないけど、もう試験監督を絶対に倒す必要はないと思えてな」
木剣が折れた後、アラッドは純粋な強さではなく技術面的な部分をアピール。
そのアピールは十分に成功しており、その結果……アラッドを戦闘面で上回る者は現れなかった。
「二人とも、やれるだけやれたんだろ。それなら、二人が落ちてる筈がない。俺も絶対に落ちることはないって思える実力を出せた。だから、あとは気楽に結果を待とう」
「そうですね」
「……いつまでも気張ってても仕方ないですもんね」
「そういうことだ。折角王都に来たんだし、試験結果の発表日まで王都を散策しよう」
一度宿に戻ってフールたちに上手く実力を出せたと報告し、それから二日後の朝までアラッドたちは王都中を観光し続けた。
その間、体を動かすことは殆どなかったが、アラッドとしても退屈しない時間だった。
そして試験を受けた日から二日たった日の朝、朝食を食べ終えたアラッドたちは結果が張り出される学園に向かう。
三人の父親であるフールも一緒に付いて行きたかったが、目立つから来てほしくないとアッシュとシルフィーの二人から宣告されてしまった。
助けを求めるような目を向けられたアラッドだが、アラッドも二人の言う通りだなと思い、フールの同行を拒んだ。
落ち込むフールに結果が分かったら直ぐに報告しに戻ると伝え、三人は再びパロスト学園へと向かった。




