二百三十七話 隙間がない
(父さんに見合うキャバリオンとなると……今持ってる素材では、少し物足りないな)
アラッドが試作品として完成させたキャバリオンは、品質だけでいえば兵士たちが使うレベル。
製作者としては、やはり実力に見合う質の物を渡したい。
(とはいえ、またBランクのモンスターと戦ったとなれば、二人とも超心配する……いや、クロがいれば別に心配しないか?)
クロはまだまだアラッドや親しい者に甘える傾向があるが、年齢的には立派な大人。
Aランクの存在となった際に手に入れた力も徐々に使いこなしている。
「悩ましい顔ですね、アラッド様」
「自分でも解ってるよ、レオナ。父さんに見合うキャバリオンを造りたいんだが、鉱石は割となんとかなるけど、モンスターの素材がな……」
「なるほど、それはですね……ですが、この辺りで出現するモンスターとなると、少し難しいかと思います」
「だよな~~」
アラッドが十歳の時に遭遇したトロルの亜種など、領内で発見されるのは稀も稀。
基本的にBランクのモンスターが現れることは殆どない。
あったとしても、冒険者ギルドが直ぐに討伐依頼を出し、有能な冒険者を集めて討伐してしまう。
(トロルの素材は一応残してあるけど、使える部分は魔石と骨のみ……それだけだと足りないんだよな)
骨に関してはリンや他の鍛冶職人、ドワーフのガルンダや人族のグリエルに日頃の謝礼として、いくつか渡した。
それでもキャバリオン一個分を造るのに必要な量は、まだ残っている。
ただ、それだけではやはり物足りない。
(というか、トロルの素材のメインは皮だからな……やっぱり取り寄せるしかないか)
幸いにも、金ならばまだまだ腐るほどある。
数年ほど前と比べればさすがに落ち着いたが、それでも毎月商人が目を見開いて驚く様な金が入ってきている。
「アラッド様は、どの様な素材を使いたいのですか?」
「そうだな……父さんが扱うのを考えると、やっぱり火属性を持つモンスターの素材……ぱっと思い付くのは、火竜の爪や牙だな」
「なるほど! 確かにそういった素材であれば、フール様が扱うのに相応しいキャバリオンが造れそうですね」
「だろ。まぁ、そう簡単に手に入る素材ではないと思うが……そこら辺はリグラットさんに頼むしかないか」
リグラットとは今でも良いビジネス関係を築けている。
リバーシやチェスほど爆発的に売れてはいないが、新しい娯楽を提案し……アラッドはこれ以上仕事を増やしたくないので、製作者オリジナルの一品は作らないという約束でリグラットを通し、新しい娯楽をちょいちょい広めている。
毎度リグラットを通しているので、勿論その恩恵をリグラットも受けており……現在の財力、地位を考えればリグラットは大商人と言っても過言ではない。
「……自ら狩りたい。そういう顔をしてますよ」
「バレたか。レオナたちや、クロが一緒ならBランクのモンスターでも倒せると思ってな」
「そうですね。それだけの戦力はあるかと。ですが、アラッド様としてはそのような敵と遭遇すれば、一人で倒したいのでは?」
もう一緒に生活を始めてから数年が経ち、アラッドがある程度好戦的な性格をしているということは理解している。
戦闘狂……というほど戦闘にしか興味がない性格ではないが、それでも模擬戦や実戦で笑みを浮かべることが多い。
「……リンが造ってくれた新作の武器や、狂化の練度を試すには丁度良い相手だと思ってるけど、父さんと母さんを心配させないってことを考えると、前回のような無茶は出来ないよ」
圧倒的な速度で成長しているとはいえ、十二歳の子供がBランクのモンスターに挑むなど、自殺行為でしかない。
報告を聞いたアリサは、この時ばかりは無事だった息子を泣きながら抱きしめた。
「とりあえず、欲しい素材をリグラットさんに頼まないとな。それまでは……とりあえずキャバリオンの数を増やすか」
試作品のキャバリオンには多数の使用予約が入っており、製作者であるアラッドが入る隙間がなかった。




