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二十三話 目標にしてはならない

(……もう終わらせても良いよな)


ファイヤーボールをファイヤーボールで相殺した後、アラッドは宣言通り左手を一切使わずに模擬戦を続けた。

そして一分弱が経過し、さすがにもうこれ以上戦う意味はないなと思い始めた。


「ほい、っと」


振り下ろされた一撃を木剣で威力を殺すように受け止め、そのまま手首を捻って剣先を回転させてドラングの手から木剣を弾き飛ばした。


「もう終わりで良いだろ」


「えっ……なっ!?」


木剣を弾き飛ばされたのがあまりにも一瞬の出来事で、ドラングは何が起こったのか直ぐに理解出来なかった。

しかし手元から木剣が消え、自分の首にアラッドが持つ木剣の剣先が突き付けられていることを認識した。


どこからどう見てもドラングの負け。

そうにしか見えない状況を本人も理解した……だが、直ぐにその現状を認められなかった。


「お、俺はまだ……俺はっ!!」


「どこからどうみても俺の勝ちだと思うんだが……だよな、グラストさん」


「そうですね。ドラング様、決着です。木剣が無くなっても拳があるという言葉はなしです。こういった結果になってしまったという時点で、ドラング様の負けです。仮にアラッド様がこの木剣を止めなければ、ドラング様の喉は潰れ、死んでいたかもしれません。それは分かりますよね」


「ぐっ……クソッ!!!!!」


今度は勝てると思って挑んだ模擬戦。

しかし結果は自分が予想していた内容と現実は全く違っていた。


自分の剣技と魔法は全く通じず、全てのステータス面で圧倒されたと感じた。


これ以上勝負を挑むのは愚策だと……単なる我儘だということはドラングも解っている。

だが、幼い心が納得出来るかどうかは別の話だった。


「それじゃ、俺は訓練に戻るから」


しかしそんなドラングの気持ちを察することはなく、アラッドはその場から離れて訓練に戻った。

元々ドラングが横柄な性格だったこともあり、アラッドはあまり興味がなかった。


そんなアラッドからすれば、わざわざ模擬戦を受けたことに感謝してほしいと思っていた。


「くそっ!!! ……クソッ!!!!!!」


アラッドが訓練場から離れた後、ドラングは何度も拳を地面に叩きつけ、何とも言えない空気が漂っていた。


「……今のアラッドは、僕でも勝てるか分からないね」


「それは本当ですか、ギーラス兄様」


「あぁ、本当だ」


ルリナだけではなく、ガルアも直ぐにはその言葉を信じられなかった。


「アラッドが今までどれだけのモンスターを倒してきたか詳しくは知らないけど、父様から特別許可を貰ってから屋敷を出て外に行ってる回数を考えると……レベル十ぐらいになっていてもおかしくないと思う」


「じゅ、十……それが本当だったら、ドラングが子ども扱いにされるはずね」


「……弟はどうやらとんでもない奴を目の敵にしてしまったみたいだな」


ガルアは弟に実力を追い抜かれたかもしれないと分かっても、気持ちに焦りが生まれることはなかった。

しかしドラングは完全にアラッドを目の敵……ライバルとして認識しているので、勝利欲求が満たされるのはアラッドに勝利した時のみ。


それがいかに難しいことなのか……ガルアは実際にアラッドと戦ってはいないが、なんとなく解っていた。


「アラッドは全く本気を出していなかったよな」


「そうだね。屋敷に居る時はいつも素振りや体力づくりを行っているから、レベルが上がった時に身体能力も前衛と同じ様に上がる。それを考えると、ドラング相手に全力を出したら本当に殺してしまう可能性がある」


「……アラッドは糸も全く使っていなかった。ですよね?」


「うん、そんな様子は全く見えなかった。仮にアラッドが糸を使っていれば、前回と同じく勝負にならなかっただろうね」


三人は兵士たちからちょいちょいアラッドがモンスターと戦う時、どのようにして倒してるのかを聞いてる。

なので、今回も勝負になっていたかどうかは微妙なところだが、アラッドが糸を使っていれば転ばされてから動きを封じられ、ボコられて終了する光景が容易に想像出来てしまう。


「僕としてはアラッドをライバル視することは全くお勧めできないね。二人共ファイヤーボールを撃つ速さを見ただろ」


「えぇ、しっかりと見ました。正直嫉妬する速さでした」


ルリナはどちらかといえば攻撃魔法メインで戦う派なので、アラッドがファイヤーボールを放つまでの速度の凄さが身に染みて解かる。


「俺はあの巻き上げが印象的だったな。力量差があったから上手くいったのかもしれないが、槍をメインで使う俺としてはあれぐらい出来る技量に早く辿り着きたい」


アラッドにコテンパンにされてしまったドラングはしばらくすると立ち上がり、涙を零しながら素振りを始めるが、兄や姉たちは焦ることなくアラッドの力について話し合っていた。

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