百九十五話 良く思わない者もいる
(暴走したモンスターに襲われた翌日にこんなことをしてて良いのか?)
人為的に暴走したレッドビートルに襲われてからも、アラッドとレイ嬢は日が暮れる手前までモンスターを狩り続け……着実にレベルアップを重ねた。
そして次の日……まだまだレイ嬢との狩りを続ける日にちはあるのだが、なんと数日前と同じく……アラッドは令嬢とデートをすることになった。
(まぁ、がっつり護衛はしてくれてるみたいだけどさ)
先日よりもガルシアたちの気配が強く感じられ、とても心強いとは思うが……だとしても、不安は全て消えるわけではない。
「アラッド、少し表情が暗い気がするが……大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですよ。ただ……先日の一件のせいで、街中を二人で歩いていることに不安を感じるといいますか」
いざとなれば、アラッドも全力でレイ嬢を守ろうと思っている。
ただ、それでも相手が殺しのプロとなれば……自分の全力がどこまで通じるか分からない、という不安がある。
「なるほど。確かに先日の一件は驚かされた……うん、本当に驚かされた」
レイ嬢としても暴走したモンスターと遭遇するのは初めてなので、いきなり飛んできたレッドビートルの突進には命の危機を感じた。
とはいえ、その衝撃よりも結局一人で暴走したレッドビートルをアラッドが一人で倒してしまったという内容の方が、レイ嬢としては衝撃が強かった。
(あのモンスターが、私を狙っていたかもしれないという可能性があるのは解る。アラッドは名前こそ貴族界隈で知られている方だが、殆ど社交場には出ていない)
堅苦しい空間が嫌いなアラッドは、本当に社交場に顔を出さない。
アラッド自身は、最低限顔は出そうかと思っているが……そう思ってからなんやかんやで一回も出席していない。
故に、父親であるフールは自慢げにアラッドの凄さを社交場で語るが、本人が殆ど社交場に出てこないこともあり……実際のところはどういった人物なのか、事実とは違う噂が飛び交っている。
(それを考えれば、アラッドが狙われる可能性は少ない……ただ、アラッドがパーティーに出席すれば、厄介な者たちに絡まれるかもしれないな)
父親であるフールがその凄さを社交場で話すが、実際にその凄さを目にした者は殆どいない。
その為、父親がわざと大袈裟に話している……なんて思っている者は少なくない。
アラッドに否定的な考え、思いを持つ者がいる一つの要因として……パーシブル家の四男であるドラングがアラッドのことについて質問されると、非常に否定的な答えを返す。
(そこまで悪いというか、他人を貶すのが好きなタイプとは思えないが……身内にこんな規格外がいれば、自分は負けてないと見栄を張る……もしくは否定したくなるものか)
レイ嬢の身内にも飛び抜けた実力、才を持つ者はいるが……レイ嬢もその者たちに負けない特別な力、そして飽くなき向上心がある。
ドラングも決して才がないわけではなく、向上心がない訳ではない。
寧ろ向上心は、同世代の中でトップクラスと言えるだろう。
だが……同じ世代に生まれた身内が、あまりにも化け物過ぎた。
「? レイ嬢、俺の顔に何か付いていますか」
「いや、何も付いていないぞ。少し考え込んでしまってな」
「そうですか……ところで、本日はどの様な店に行きますか?」
「……服を、見に行っても良いか」
「えぇ、勿論です」
前世の知識から、女の買い物は時間が掛かる。
それは分かっているが、精神年齢的に歳下であるレイ嬢からの頼みをアラッドが断る訳がなく、二人は先日のデートでは訪れなかった服屋へと向かった。
(……さて、とりあえずレイ嬢が気になる服を見つけるまで待つか)
訪れた服屋には男性物の服も当然あるが、アラッドは今のところ服が欲しいと思っていない。
現在の年齢を考えれば情けなくないが、今のところ私服なども母親であるアリサが主に選んでいた。
そして店に入ってから数十分後……ついにアラッドの仕事がやってきた。