百六十五話 千以上は売っている
「ほぉぉぉ~~~~~……凄い」
アラッドの狩りに参加した翌日、リンの目の前には立派な鍛冶場があった。
「どうだ、リンが鍛冶をするのに文句ない設備……らしいんだが」
錬金術を趣味とするアラッドでは、目の前の鍛冶設備を見て何となく凄いとは思うが、どこがどう細かく凄いのかは分からない。
「良い……とても良い。でも、これを造るのにかなりお金がかかったんじゃないっすか」
「まぁ、それなりだな。例えると……こいつぐらい?」
「ッ!!??」
リンはアラッドが亜空間から取り出した物を見て、目玉が飛び出そうなほど仰天。
アラッドは先日のオークションで魔眼のスキルブックを落札し、無事に魔眼を習得した。
そして……なんと、フールから空間収納のスキルブックを譲り受け、空間収納まで習得していた。
アラッドは自分の懐を温めるためと思って色々と自分で造ったり、アイデアを出していたりしたが、それらのお陰でパーシブル家の懐は有名どころの商会にも負けないほど膨れ上がった。
結局はアラッドのお陰なのだが、その礼としてフールは自身で落札した空間収納のスキルブックをアラッドに渡した。
「そ、それは……本当、っすか?」
「はっはっは! 冗談だ冗談。これの半分ぐらいだ」
「そ、そうなんっすね……いや、それでも驚きっす」
空間収納から取り出された物は……鉱石の中でも最高級の素材、ヒヒイロカネ。
鍛冶師であるリンにとっては何時間でも見続けられることが出来る、至高の鉱石。
「自分の為に、こんな設備を用意してくれて……本当に嬉しいっす!!!!」
感極まったリンは主に忠誠を誓う騎士の様にアラッドの方を向き、膝を突いた。
「嬉しいのは分かったから、起き上がってくれ。そうやって礼をされるのは……少しムズムズする」
「分かったっす」
起き上がったリンはもう一度……じっくり、隅々まで鍛冶場を見渡す。
(全てが……全てが一級品の物ばかり。ドワーフの鍛冶師達が見れば、涎を垂らしそうだ)
涎を垂らすことはなくとも、その日は鍛冶場から出てくることはない。
そんな例は決して珍しくない。
「ただ……一つ疑問なんっすけど、アラッドさんはその……どれぐらい稼いでるんっすか?」
「それは俺の総資産ということか」
「えっと……そうっすね」
いったいアラッドの総資産は幾らなのか。
リンの為に鍛冶場を用意したアラッドだが、金貨五千枚以上を使ってもその顔には金銭的ダメージが全くない。
(どれぐらいあるんだろうな)
正直なところ、アラッドは正確には把握していない。
だが、それでもアラッドの下にはまだまだプレミアム品を造ってほしいという依頼がいくつも届いている。
一つ売るだけで、アラッドの懐には金貨五十枚が入ってくる。
一般的なリバーシやチェスは一つ売れるごとに銅貨十枚と五十円。
ただ、それなりにお金に余裕がある者であれば、持っているだけで一つのステータスとなるプレミアム品を欲しがる。
「国外でも売れてるらしいから、一般販売しているリバーシとチェスの収入も結構あるし……プレミアム品は一つ金貨五十枚。偶にトレントの木以外の鉱石とかで作ってほしいという依頼の場合は、絶対に失敗できないから割増しで貰ってるんだよ」
「……アラッド様も把握出来てないってことっすね」
「そういうことだ。だから先日オークションに参加して、少しでも消費しようと思ったんだ。俺は食以外にあまり金を使わないからな」
「そうっすね」
それはここ数日間一緒に過ごす中で解った。
(あまり詳しくは知らないっすけど、貴族って何十何百っているっすよね。金を持ってるってだけなら冒険者や商人も同じ……って事を考えると、黒曜金貨もアラッド様にとってはそこまで大金じゃない?)
アラッドは既に千以上ものプレミア品を造り上げ、売っている。
その中には鉱石で造ってほしいという依頼もあり、金貨五十枚以上の報酬が入ってくるのもザラ。
アラッドにとって黒曜金貨が大金ではないという訳ではないが、現状を考えると何かの支払いに使ってもそこまで痛くないという事実だった。