百六十二話 しっかり全員強い
「ふぅ~~~~、皆強いな」
今日はなるべくドラングと顔を合わせない方が良いと思いながら、エリナたちが待っているいつもの庭へと移動。
そして五人が動きやすい格好をしてることを確認し、まずは模擬戦の前に軽く三十分ほど鍛錬を行う。
アラッドは自分の鍛錬方法をエリナたちに強制することはなく、庭を荒らさない程度に自分たちの方法で鍛錬を行ってくれと伝えた。
するとエリナとシーリアは少し体を動かした後、魔力操作をメインにした鍛錬を開始。
ガルシアとレオナ、そしてリンはがっつり体を動かし、アラッドとの模擬戦に備える。
そしていよいよ模擬戦が始まる前に、アラッドは主人としてエリナたちに伝えた。
手加減する必要はない。接待もしなくて良い。俺は強くなる為の模擬戦がしたい。
俺が怪我をしたところで、お前たちが気にする必要はなく、逆に下手に手加減すれば怒ると。
アラッドの表情から本気だということが伝わり、エリナたちは気合を入れなおしてアラッドとの模擬戦に挑んだ。
そして五戦……全員と一度ずつ模擬戦を行った結果……見事にアラッドの全敗だった。
「ガルシアとリン、エリナには本当に手も足も出なかったな」
「い、いえ。そんなことありません。その……本当に、アラッド様の実力には驚かされました」
「俺も同意見です。というより、俺たちの体格やレベルを考えれば、勝てないと不味いですよ」
「うん、ガルシアの言う通りっす。えっと……お言葉だけど、現時点で勝てないのは駄目っす」
アラッドの身長は現在、百二十数センチ。
七歳児の平均身長程度。
それに対して、五人の中で一番身長が低いシーリアでも身長は百五十数センチある。
そもそも体格的に不利であり、レベルもアラッドは二十。
それに比べて五人ともレベル三十を超えている。
アラッドは特殊な体質ゆえに、レベルの上りは遅いがレベルアップした際の恩恵が他人と比べて大きい。
だが、それでもまだ五人には及ばない。
特に身体能力に特化したガルシアとレオナ、そしてリンと比べればまだまだ大人と子供。
(シーリアとはそれなりに良い勝負ができたと思うけど、それでもまだまだって感じか。視たところ、今までがっつり戦いに身を置いてきたって感じじゃなさそうだしな)
しかしそれでもレベル相応の身体能力は持っており、加えて得意な得物は弓なのだが接近戦でもアラッドの猛攻に耐えた。
そしてエルフであるシーリアの魔力操作技術はアラッドより上。
確かに見てる側としては少々ハラハラする内容だったが、糸を除けば総合的に考えると現時点ではアラッドよりもシーリアの方が上だった。
(糸を使えば……模擬戦であれば勝てるか? でも、真剣勝負だとまた話は別だから……うん、やっぱり俺が一番弱いな)
それがアラッドの中で出た答えだった。
「まぁ、体格は……これから大きくなる。そうすれば、お前らと良い勝負ができそうだな」
「アラッド様なら、遠くない内にその日が来るかと」
エリナのその言葉には嘘偽りは一切ない。
アラッドは五人との模擬戦で攻撃魔法を使いながらも、基本的には接近戦をメインで戦い続けた。
そしてエリナの得物は細剣……レイピア。
アラッドが瞬時に攻撃魔法を放つところにも驚かされたが、それよりも木製のレイピアで木剣を受けた時。
打撃をガードした時の衝撃の方が大きかった。
(どう考えても、七歳児の攻撃じゃない。とんでもない重さを感じた。一般的な人族の子供ではないと思っていましたけど、戦闘力に関しては予想外も予想外です)
魔法の技術よりも、攻撃の重さに衝撃を感じた。
それはエリナ以外も同じ感想だった。
特に接近戦メインのガルシアとレオナ、リンはいずれ本当に自分たちと同じか……それ以上を身に着けるのではないかと思い、冷や汗を感じた。
「さて、俺は皆と一通り模擬戦を行ったが……お前たちの中で、こいつと戦ってみたいと思うやつはいるか? 俺一人だけが五人の中の一人と模擬戦を行うってのも暇だろ」
特に指示したわけではないが、五人は誰かがアラッドと模擬戦を行っている間はずっと模擬戦を眺めていた。
「特に戦いたいやつがいなかったら、自己鍛錬をしてても構わない……ガルシア。もう一回模擬戦に付き合ってくれるか」
「喜んで!!!」
全員と模擬戦を行ったにもかかわらず、また直ぐに模擬戦を行う。
他四人はアラッドの底無しのスタミナに本気で驚かされた。