百三十七話 そろそろ放出した方が良い
ヴェーラとのお茶会を終えた翌日、アラッドたちは特に誰かに絡まれることなく家に向かって出発。
「アラッド、今回のお茶会に参加したご令嬢たちからもしお誘いがあったら、どうする」
道中、馬車の中でフールは全然あり得る可能性について息子に尋ねた。
「ヴェーラ嬢たちからですか? そうですね……まぁ、一応受けようとは思います。家についてまた直ぐにというのはご遠慮したいですけど」
昨日のお茶会での印象は、全員令息たちも含めて悪くなかった。
まだ全ての顔を見たとは思っていないが、それでも今後……ヴェーラたちが学園に入学するまでは時折会ってお茶を飲み、談笑する仲になるのも悪くない。
それが正直な感想だった。
「そうかそうか……私としては嬉しいね」
息子が平民の子供、バークたちと一緒に訓練を行っていることは知っている。
勿論「平民の子供なんかと関わるな!!!!」なんてアホ丸出しの発言をしたりはしない。
だが、もう少し貴族の子供とも関りを持ってほしいとは思っていた。
(令息、ご令嬢たちと偶に会う程度であれば、拒否感はない…………それなら、まだあの話はしない方がいいね)
実はイグリシアス家の先代当主であるバイアード・イグリシアスが休暇で実家に帰っており、昨日フールは少々お話をした。
その際に近いうちに孫娘であるレイと一緒に、アラッドとモンスター狩りを行わないかと提案された。
(レイ嬢は特異な身体能力を有している……それを考えれば、低ランクモンスターとの戦闘であれば問題無い。仮にDランクのモンスターと遭遇しても、アラッドが傍にいれば大丈夫)
アラッドの成長ぶりは何度も見ているので、Dランクのモンスターが群れで襲い掛かったとしても対処出来ると確信している。
たとえCランクのモンスターと遭遇しても、一体……もしくは数体であれば倒せてしまう。
親バカと言われるかもしれないが、アラッドにはそれだけの力が十分にある……生まれてから七年弱の間見続けた結果、その考えは変わらない。
(まぁ、アラッドがレイ嬢と一緒にモンスター狩りを行うとしても、護衛として騎士や魔法使いが同行するだろうから、あまりその辺りを心配する必要はないんだけどね)
フールは騎士団に所属していた頃の先輩からの頼みということもあり、アラッドにはバイアードからの提案をなるべく受けてほしいと思っている。
「そうえいば父さん、メイドから数か月後に街でオークションが開催されると聞きました」
「ん? あぁ、そうだね。確か三か月後ぐらいだったかな。全体でみてもそれなりに規模が大きいオークションが開催されるけど……もしかして参加したいのかい?」
「はい。今まで稼ぐだけ稼いで全くお金を使っていないので、そろそろドバっと使った方が良いかと思って」
リバーシやチェスなどで大金を稼ぎ、今も毎月懐に金が入金されている状態。
勿論、アラッドも多少なりとも稼いだ金を使っているが、限定的な部分にしか使わず、まだまだ全然有り余っている。
アラッドが住んでいる大陸では手に入らない食事や鉱石。
それらにしか金を使わず、鉱石に関してはランクが高い鉱石などは買わず、錬金術の訓練で失敗しても無駄にしてしまったと感じない程度の物しか買わない。
(それは良いことだね。アラッド個人の総資産は……結構とんでもないことになってるからね)
溜まりに溜まったお金をそろそろ放出した方が良い。
それはフールも考えていた。
だが、アラッドは本当に無欲だった。
決して物欲がゼロという訳ではないのだが、あれもこれも高い物が欲しいという性格ではない。
「ということは、オークションで落札したい物は決まってるのかな」
「いえ、それはまだ決まっていません。本当に貴重な鉱石とかが出品されるのであれば落札しようかと考えていますが……直感で欲しいと思う物があるかもしれませんね」
実際に落札額はその時になってみなければ分からないが、一人が本当に自由に動かせる金額となれば、アラッドはトップクラスに入る。
故に、おそらく大抵の物は落札出来てしまう。
本人もそれが分かっているからこそ、近々開催されるオークションが楽しみだった。