百三十二話 確かに切り札
「俺が五歳の時に授かったスキルは、糸だ」
「「「「「「……え?」」」」」」
アラッドが授かったスキルを聞き、全員が同じ反応をした。
「む、皆どうしたのだ? 変な顔で固まっているが」
着替えてきたレイが到着。
ただ、アラッドが授かったスキルの名を聞いていなかったレイには、何故ヴェーラたちが少々間抜けな顔をしているのか分からない。
「あ、アラッド……もう一回、君が授かったスキルの名前を聞いてもいい、かな」
「あぁ、構わない。俺が五歳の特に授かったスキルは糸だ」
自分たちの利き間違いではなかったと解り、ベルたちの表情は変な表情から元に戻る。
しかし心の中には多くの疑問が残った。
(ふむ、なるほど。ヴェーラたちがあのような表情をしていたのはそういった理由だったか)
それなりに冷静ではあるが、レイもアラッドが授かったスキルの名前を聞いて衝撃を受けた。
実際に剣を交えたからこそ、レイは自分よりもアラッドの方が剣の上だと感じていたので、てっきり剣技のスキルを授かったのかと思っていた。
「意外だったか?」
「そ、そうだね……うん、意外だったよ」
糸という名のスキルは初めて聞くが、とても戦闘用のスキルには思えない。
なんとも家庭的なスキルだと、六人とも全員同じ感想を持った。
この場に実家が裏では暗殺業を行っているような家の出身の者がいれば、暗殺に使えるスキルなのかと予想出来たかもしれない。
だが、この場にいるレイたちの家はその様な特殊な事情を抱えておらず、ヴェーラを含めて全員がまさかの事実に驚いていた。
ただ……貴族が戦闘用以外のスキルを授かることはあるにはあるので、決してアラッドが超例外的な存在という訳ではない。
「いや、でも……それはそれで凄いね」
「そうね」
糸という、武器にも魔法にも関係無いスキルを授かったにも関わらず、大量の魔力量を有し、剣技の腕前もトップクラス。
まさに才能など関係無いと言わんばかりの実力を得ている。
そんなアラッドに対し、ベルたちは尊敬の念を抱いた。
だが、ここで一つアラッドはベルたちの誤解を解こうとした。
「何か勘違いしてるのかもしれないが、糸は攻撃に使えるぞ」
「「「「「「「ッ!!??」」」」」」」
アラッドの言葉に先程と同じ様に、全員大なり小なり驚いた。
まだまだ子供のベルたちには、いったいどうやって糸で攻撃するのか想像が付かない。
「い、いったいどうやって攻撃するんだい」
「……ちょっと耳貸せ」
そう言うと、アラッドは隣に座っているベルにこっそりと、どうやって糸で攻撃するのかを伝えた。
そしてその攻撃方法を聞き終えたベルは今日一驚いた顔になった。
「そ、それは……とんでもなく恐ろしいね」
「そうだろ」
ベルの表情に驚きはあれど、恐怖はない。
いったいアラッドがどういった攻撃内容を話したのか、ベル以外興味津々。
「アラッド、それを私達にも教えてくれない」
「……悪いが、内緒にしてもらおう。一応俺の切り札だからな」
なんとここで、アラッドはベル以外に糸を使った戦い方を話さないと断言した。
(た、確かに切り札ではあるね)
何も知らなければ、相手は大ダメージを受けること間違いない。
それが分かったからこそ、ベルはアラッドが実際にその攻撃を人前で使うまで話さないと決めた。
だが、アラッドがベル以外には話さないと言った瞬間、ヴェーラたち六人の視線が一気にベルへと向けられた。
「うっ!! え、えっと……その…………き、切り札という言葉に、間違いはないね」
どんな攻撃内容なのかは話さないが、攻撃の個人的な内容の感想をついポロっと漏らした。
(言わないでくれると助かるが、別にバレたらバレたでそれは構わないんだけどな)
アラッドが別に伝えた攻撃方法は、ほんの一部のみ。
そこから連想されてバレるかもしれないが、勘の良い大人たちは糸というスキル名を聞けばある程度予想出来てしまう。
それが分かっているからこそ、アラッドはそこまで授かったスキルについて本気で隠そうとはしなかった。