千二百十六話 最終兵器?
アッシュ……この名前は、貴族出身の騎士や魔術師にとっては、非常に耳にしたことがある人物名である。
同じ名前の人物が全くいないという訳ではないが、それでも珍しい名前であることに変わりはない。
それ故、騎士たちがアッシュという名前を聞くと、あの学生のアッシュが思い浮かぶ。
(まさかとは思うが、あのアッシュ……なのか?)
アッシュは、アラッドよりは社交界に出席した回数が多いものの、フールの子供たちの中では一番下から二番目である。
社交界に出席しても、あまり目立たないようにしているため、本来であれば侯爵家の令息と言えど、名が広まらない流れになってもおかしくない。
ただ、本人にその気がなくとも、周りの人物の対応次第ではそうもいかない。
まず……アッシュをライバル視しつつも、彼を一番認めている存在、シルフィーが本当はアッシュの方が強いと口にしている。
アッシュとしてはよけいなことを言わないでくれとツッコミたいが、シルフィーとしては……確かにライバル視はしているが、それでも彼女にとって双子の彼は大切な家族。
そのため、自慢したい……もっと知ってもらいたいという気持ちの方が大きい。
そして、二人目はフール。
当然ながら、彼はアッシュの才能をしっかりと見抜き、把握していた。
フール自身、才能がある方の人間だと自覚しており……戦闘の才に関しては、子供たちの中だアラッドが群を抜いていた。
だが……そんな自分、アラッドよりもずば抜けた戦闘の才を持っていると感じた。
そして、その洞察力や把握力は部下の言葉や実際に見ており、間違いなく天賦の才の持ち主だと確信している。
同格の貴族たち、もしくは元同僚たちとテーブルを囲む際、フールから話すことはない。
ただ、相手側が気になって尋ねることがある。
フールの子供たちは誰もが優秀である。
数名ほど戦闘面ではという注意が付くが、それでもやや問題児扱いされがちなドラングも、数多くいる令息たちの中では優秀な部類に入る。
そんな優秀な子揃いだからこそ、あまり表に顔を出さないアッシュはどうなんだと、つい尋ねたくなる。
そうなると「尋ねられたら仕方ないね」と、フールも嬉しそうな笑みを浮かべて応えてしまう。
勿論、誇張することはない。
ただ……フールから見て、事実と感じた内容を口にする。
その事実と感じた内容だけでも、同格の貴族たちや元同僚たちにとっては十分衝撃的な内容である。
そんな中……当然と言えば当然だが、ある貴族がその子は騎士の道に進めさせるのかと尋ねた。
フール以上の才の持ち主。
多くの者が、特に元同僚たちはフールが自身の才能だけで遥か高みへと到達したのではないと解っている。
それでも、彼以上の才を持つという内容は、非常に衝撃的で……騎士たちからすれば、是非ともこちらの道に進んで欲しいと思ってしまう。
だが、フールは今のところその道に進ませるつもりはないと答えた。
当然、元同僚たちからは何故なのかと疑問の声が零れる。
対してフールの答えは……彼らからすれば、少々意外なものだった。
「アッシュを騎士の道に進めようとしたら、アラッドに怒られそうだからね」
というのが、フールの答えであった。
アラッドは弟であるアッシュの事を、妹であるシルフィーのことを非常に可愛がっていた。
そんな二人にそのつもりがないにもかかわらず、騎士の道に進めようとすれば……兄であるアラッドが怒りを露にしてもおかしくない。
とはいえ、それでもアラッドは侯爵家の令息。
その彼が怒ったところで……と、何も知らない者は思うだろう。
しかし、内情を知ってる者たちからすれば「あぁ~~~~……確かにそうですね」という反応になる。
パーシブル家は同じ他の侯爵家と比べて、その財産はかなり潤っている。
その理由は……アラッドのアイデアにある。
アラッドがブチ切れて縁を切る、屋敷の中で大乱闘が始まてしまう……ということはないだろうと解っていても、それでも恐ろしさを感じる部分はある。
そして三人目が……以外にも血が繋がっていない母、アリサである。
彼女も彼女で他の家の奥様方とお茶をする機会があり、奥様方はアリサが元凄腕の冒険者だと知っているからこそ、アッシュはどうなのかと尋ねる。
アリサから見てもアッシュの才は非常にずば抜けており、旦那と同じく誇張はしないものの……自身が思った感想をそのまま告げる。
父親と、血が繋がっていない母親の考えが合致しているということもあり、アッシュは知らぬ前にパーシブル家が抱える最終兵器……といった具合に認識されていた。
そんなこんなで、騎士たちからすれば是非とも何かが切っ掛けとなり、騎士の道へと進んでくれないかと投げう様な存在。
魔術師たちとしても、彼は魔法の方に興味はないのかと……奇跡でも起きてこちらの道に来ないかと本気で考えてしまう様な存在。
だが、聞いていた外見と現在アッシュと呼ばれている青年の特徴が一致しない。
そう……特徴は一致しないものの、強さという点に関しては、一致しなくもないと感じるのだった。




