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十二話 その場から一歩も動かず

「そういえばアラッド様、糸のスキルは戦闘に役立ちそうなんっすか?」


領内から出て森に向かう途中、モッチは気になっていたことを尋ねた。

五歳の誕生日にスキルを得る前から人一倍訓練に力を入れていたアラッド。


そんなアラッドが糸というスキルを手に入れた時、多くの者が落胆した。


だが、その後もアラッドは気を落とすことなく訓練に集中していた。

そこで兵士や騎士たちの間でとある考えが浮かんだ。


もしかしたら、糸は戦闘でも使えるスキルなのでは? という疑問が浮かんだのだが、さすがに本人に直接聞く猛者はいなかった。


しかし、そんなアラッドがドラングとの模擬戦で圧倒的な強さを見せ付け、遂には特例として五歳でモンスターと戦う許可を得た。

この一件で、更にその考えが合っているのではという思いが強まった。


「……あぁ、そうだな。戦闘以外でも使えるが、戦闘でも役立つ」


「そ、そうなんすね!!! 凄いじゃないっすか!!!!」


「ありがとな。ただ、糸の難点は対人戦ではあまり使用できないことだ」


「もしかして何か弱点があるんすか?」


「いや、弱点というよりも……うっかり腕を切断したり殺してしまう可能性があるんだよ」


「「「ッ!!!???」」」


まさかの内容にモッチだけではなく、ノーラスやユーナの表情も驚き固まった。


「あ、アラッド様……それは本当、なのですか?」


「本当だぞ。とはいっても、実際に目の前で見てみないと信用できないだろう……ふむ、丁度良い相手が来たみたいだな」


既に四人は森の中に入っており、一体のモンスターが近づいてきた。


「モッチ、あれってホーンラビットってやつだよな」


「そ、そうっす。冒険者の中では初心者殺しって言われてるっす」


「あんな可愛い感じの見た目なのに?」


通常のウサギよりは体が大きく、額からは角が生えている。


「ダッシュからの突進で体に穴を空けられるルーキーが多いみたいっす」


「……なるほど。で、あれは完全にこっちを敵視してるよな」


「みたいっすね。アラッド様、お一人で大丈夫っすか?」


「大丈夫だから安心して観てろ。なんで糸を対人戦で使い辛いか、ちゃんと見せてやるよ」


余裕しゃくしゃくといった様子で近づくアラッドに狙いを定め、ホーンラビットは腹を狙ってダッシュ。

直前ジャンプし、丁度腹に当るように飛んだ……が、空中でその動きは止められ、跳ね返されてしまった。


「今のは……ホーンラビットが跳ね返された?」


「……空中に糸を固定した?」


「正解だ。何本か空中に固定したことで無事跳ね返した」


魔力の感知に優れているユーナは直ぐにホーンラビットが跳ね返された理由を察した。


「これでこいつの突進はまず俺に届くことはない」


それは正しい。だが、ホーンラビットには何が起こったのか分からず、もう一度全力で突進。

今度こそ目の前の敵を串刺しにしてやると思っていたが、今回も角は敵に届かなかった。


それどころか、今度は空中で動きが止められた。


「これで、終わりだ。スレッドサークル」


スキル技を発動させると、ホーンラビットの首に糸が現れ……そのまま糸を縮めて首を切断した。


「こんな感じだ……どうだ、対人戦に使うには少々危ないだろ」


「そ、そうっすね……いや、でも凄いっす!」


本当にあっさりと終わってしまった。

その場から一歩も動かず、糸というどう使えば良いのか迷いそうなスキルをよく理解し、ホーンラビットを圧倒した。


「よし、それじゃ解体といこうか」


「それではまず今回は私が手本を見せますので、近くで見学していてください」


「あぁ、分かった……うっ!!!!」


ホーンラビットの切断面を見たアラッドはそのグロさに耐え切れず、ギリギリ顔の向きを変えて地面に吐いてしまった。


「あ、アラッド様! 大丈夫ですか!?」


ユーナは直ぐにアラッドの傍に駆け寄り、背中をさする。


「あ、あぁ……大丈夫だ。初めて見たからちょっと気持ち悪くなっただけだ」


「アラッド様、今回はモンスターの討伐のみに集中してもよろしいかと思いますが」


「気にするな、ノーラス。冒険者になるなら、いずれ越えないといけない問題だ。それに一回吐いてしまえば、後は問題無い」


「そ、そうですか……では、解体を行います」


ノーラスによる解体授業が行われる中、血の匂いと前世では画像でしか見たことがないグロい光景に顔をしかめるが、気合と根性でなんとか乗り越えた。

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