千百八十六話 ダサい?
「へぇ~~~、そんな凄い人たちが来てたんだ」
二日目の朝、シルフィーは朝食を食べながら先日の夜、自身が既に寝ている間に訪れて来た客に関して二人から聞いていた。
「そうだね。凄い人たちだよ」
「ふっふっふ、そうじゃのう…………一人なんぞ、アッシュの為に来ておったからの」
「…………」
「アッシュの為に? それって……もしかしなくても、そういう事なんですか?」
木竜には人間として生きた時代があった。
だからこそ、異性に恋をしている人間が無意識に零す雰囲気というのを、何となくではあるが覚えている。
何故人間が恋をするのか……恋とはいったいなんなのか。
その疑問に関しては、自分を殺そうと、討伐しようと……本気で命を賭して挑みに掛かる者たちに対し、自分たちが抱く感情だと同じだと把握している。
「えっと、リエラさんって人が、ってこと?」
「そうじゃな」
「凄いじゃん……凄いじゃん、アッシュ!!!!」
子供っぽいところ、考え無しなところがあるシルフィーであっても、解る。
友人……想いを寄せる相手の為であったとしても、他国の戦争に参加するというのは、それ相応の…………それ以上の覚悟が必要となる。
加えて、アッシュの場合特例として……レイ辺りと一緒にという可能性はあったが、それでも可能性の話。
アッシュがそういった流れであれば兄や親に頼んで阻止してもらおうと思っていた為、基本的に彼が戦場に参加することはなかった。
だからこそ、リエラがそれでも……勿論、少しでも友人であるアラッドの助けになれたらという思いはあれど、想い人であるアッシュの為にもという志で戦争に参加したことにシルフィーは驚きを隠せない……といった表情ではなく、非常に嬉しそうな顔をしていた。
「……なんだよ、その顔は」
「だってさ~~、アッシュって女の子からモテるけど、でもそういう相手はつくらないし、好きな子たちも……多分、そこまでの想いっていうか……情熱? は、なさそうじゃん」
「無くて普通だよ。あの人がちょっとおかしいだけだから」
自分という人間が好きという部分も含めて嬉しい……そんな言葉の裏を、双子であるシルフィー……モンスター生が長い木竜は直ぐに察するのだった。
「ん~~……確かに、出会って直ぐ婚約を申し込んでくるのは…………でも、一目惚れと一緒なら……そんなに変じゃない?」
「いや、変でしょ」
「けど、私たちってほら、貴族の子供じゃん。それで、リエラさんって公爵家の令嬢なんでしょ」
「………………」
やんちゃガールタイプのシルフィーから、思った以上に納得出来る理由を返され、しばしの間驚き固まるアラッド。
「アッシュ?」
「っ、そう……だね。僕たちの立場を考えれば、あまりおかしい事じゃないのかもしれないね」
「だよね~~~。それじゃあ、終わった後に婚約するの?」
「そうはならないよ」
「えぇ~~~~~~~」
先程まで嬉しそうにしていた顔から一転、超不満気な表情になるシルフィー。
「話聞いてても、良い人そうってのが解るんだけど」
「悪い人ではないと思う」
「物凄く綺麗な人なんでしょ」
「多分、そうなんじゃないかな?」
「対抗戦の時はアッシュが勝ったけど、強い人なんでしょ」
「アラッド兄さんじゃないから、そういうところは気にしないけど……強いと思うよ」
「…………不満そうなとこ、なくない?」
首を傾げるシルフィーに、木竜も苦笑いを浮かべながら小さく頷いた。
ドラゴンではあるが、思い返し……今しがたシルフィーが確認した事を纏めれば、良き女性であることが解る。
「……そういう事じゃない、ってだけだよ」
「はぁ~~~。恋愛に興味ないってこと?」
「解ってるじゃん」
一応解ってはいた。
アッシュはモテる話はあっても、浮ついた話は出てこない。
「も~~~~、アッシュ。そういうマジで恋愛になんて興味ありませ~~んって態度でいるの、ちょっとダサいよ」
この世界に中二病という言葉はない。
ただ、シルフィーはアッシュの恋愛なんて欠片も興味ないし! という態度に関して、そういったダサい何かを感じていた。
「あっそ。それじゃあ、錬金術に恋してるってことで」
「む~~~~」
「というかさ、人の事色々と言うけど、シルフィーだって恋愛してないよね」
侯爵家の令嬢ということもあり、シルフィーの元にも縁談というのは届いていた。
ただ、シルフィーは昔からシルフィーであり……自分より弱い男子とは、あまり興味を持てない質だった。
それは中等部に入学してから加速。
学園の教師たちはシルフィーの意欲に答えようと教え、同級生たちも負けてられないと共に前に進もうとする。
それでも……一番前に進んだのは、シルフィーだった。
中等部の二年で、トーナメントを征した。
それが何よりの証拠。
シルフィーにも異性の友人、男友達というのは存在する。
しかし、今のシルフィーにとっては……どこまでいっても、彼らは男友達でしかない。
「うっ……そ、それは……そうかもしれないけど。でも、アッシュと違って興味はあるわ!」
「どうせアラッド兄さんや父さんみたいな……特異点? みたいな人じゃないとそういう意味で興味を持てないくせに」
「ふぐっ!!!!!」
さんざんあれこれ口にしてきたことが、纏めて特大のナイフになって返ってきたシルフィー。
二日目の戦争開始前から、無駄にダメージを食らうのだった。




