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話しをしている最中、部屋のドアが開き、一人の男性が部屋に入って来る。
「お話し中失礼します」
「どうしたベーラ?」
部屋に入って来た青年は、オールフェン王国の王太子、つまりエリシュカの兄。
「皆さんお揃いで丁度よかった」
「ベーラこそこんな時間まで起きてたのか?」
「まさか?騒がしくて」
「それは申し訳ございませんでした」
側近が王の部屋に来る途中にベーラの部屋があり、その廊下を大声で走りながら通った時の事を思い出しながら言うと、騒ぎの張本人がベーラに頭を下げ謝る。
ベーラは、その側近の方を小さく笑いながら軽く手を向け、気にしていないと言う様な態度を見せる。
「それより、この秘密の集まりの仲間には入れてもらえるのですか?」
「秘密にしている訳ではない」
「そうですか、それはよかった。それよりエリシュカから伝言が届きました。こんな時間に来るなんて急用でもあったのでしょうか?」
ベーラの言葉に部屋に居た全員が一斉にベーラを見る。
「なっ、なんなんですか?」
「エリシュカは何て?」
「さぁ?私宛ではないのでわかりません」
エリシュカが自ら伝言をよこした事でざわつく中、母親である王妃がベーラにこの状況を話し、その話しが終わるとベーラの顔が今までに見たこともないほどの青ざめた顔になった。
「では、エリシュカは今どこでどうなっているのかわからないってことですか!?」
「そうだな。だが、それを送る事が出来たと言う事は無事だろう。だから早く伝言を!」
「はい!」
ベーラの左腕に止っていた二羽の小鳥をテーブルの上に乗せると、その一羽の小鳥が皆の顔を見回し国王の方を向いて止まる。
≪父上、母上、わたくしの夫アッティラ様様の元に無事到着いたしました。≫
そして、もう一羽の小鳥をテーブルへ乗せると、先ほどの小鳥と同じように皆の顔を見回し大公妃の方を向いて止まる。
≪叔母上様、わたくしこの国の事を色々教えてくださいませ素敵なご縁を有難うございました。≫
※オールフェン王国の王族の血を引く一部の者は、鳥に顔を覚えさせ、その相手に伝言を伝える事が出来るという不思議な能力を持っている。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「エリシュカはヴォールーニ大公国で楽しそうに過ごしているようですわね。アッティラ殿にも早くお会いしたいですわね」
皆が何とも言えない表情をし言葉が見つからない中、今まで何も言わなかった王妃が穏やかな口調で一番に口を開いた。
ベーラは何となく妹らしいと思ったのと同時に、命の危険な状況にない事に安心する。
国王はじめ部屋にいた全員が同じことを思う。
そして、一番安堵したのはこの結婚に関り、代理結婚をした大公夫妻。
「陛下、ワタクシの知っている甥のアッティラは心優しく利口な子です。ワタクシの知っているアッティラのままでしたら、エリシュカ王女がこれ以上の侮辱を受ける事は無いと」
そうであってほしいとの思も含め、強い口調で国王に訴える様に言う。
「そうだな。エリシュカも気に入った様だし、義理の妹の言う事だ。信じよう」
「ありがとうございます」
そして、夜も遅いと言う事で話しは後日と言う事で解散。
*****
部屋には、国王と側近だけが残る。
「陛下何の罰も無くよかったのですか?」
「不満か?」
「いえ・・・」
否定はしたものの、何のお咎めもないと言うのは正直納得がいかない、と言う様な歯切れの悪い返事で返す。
「大公妃もわかっておるはずだ。何の咎めもなかった事の意味、それに全力でエリシュカの味方になってくれるだろう」
「そうかも知れませんが」
「自分と自分の実の兄が纏めた縁談をこのような形にされたのだ、しかも自分の甥(現大公)に・・・一番怒っているのは大公妃だ」
「はい」
「それに、エリシュカが自身が下手に手を出すな、と言ってきたのだ」
伝言に、助けてほしいと解釈できる言葉がなかったので、今は沈黙しエリシュカの考えに沿うようにするよう国王は決断した。勿論、エリシュカ自身が危険にさらされたり、助けを求めた場合はすぐにでも助けられる様にはしておくつもりで。
「さっそくだが、ヴォールーニ大公国と今回の事に付いてすぐに調べてくれ」
「はい」
王弟、大公邸。
王宮から帰った大公夫妻は馬車から降りると、執事が出迎える。
「お帰りなさいませ」
「・・・」
「・・・」
二人からの返事はなく、大公妃は怒りを隠すことなく血管が切れるのではないかと言うくらいの形相をし、大公は妻の怒りに対し何も言えず小さくなりながら後ろを付いて屋敷に入る。
そして、大公妃は一人自分の部屋に戻と平静を装う様に我慢していた怒りの感情を一人爆発。
「許しませんよ。こんな侮辱初めてよ!いったいどうなっているのか突き止めてやるわ!!」