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「キンガもそう思うでしょ、リスクが大きすぎると思わない?」
「そうですねお嬢様」
エリシュカの服を脱がせ寝間着を着せながら話しに頷くメイドのキンガ。
「それにしても、叔父上と叔母上はなぜ間違いに気付かなかったのかしら?」
「そうですね、大公様と大公子様は双子で同じ日にお生まれで、さらに、大公子様はアッティラ、大公様はカッティラ、お名前がよく似ておられるからかもしれません」
「まさか、そんな初歩的なミスを・・・まぁ、あの、のほほん叔父上だからあり得なくもない、かも・・・けれど、叔母上も一緒だったはずでしょ。
けれど、国境で交代て、キンガ一人しか連れて来られなかったのも納得出来たわ。わたくしが人質としてこちらに居るのだもの。その間に話し合いでもしようとしているのかもしれないわね」
「そうですね」
「キンガ、父上はもう気が付いてるのかしら?」
「どうでしょう?もし気づいていなくても時間の問題かとは思いますが」
エリシュカは少し考え込む。
「キンガ、あの子達を二羽お願い」
「はい」
キンガは、オールフェン王国から連れてきた小鳥を二羽連れて来ると、エリシュカの腕に乗せる。
「この子達を連れて来てよかったわ」
「お嬢様、なぜ二羽も必要なのですか?」
「だって、叔父上と叔母上にも送るの。それに・・・」
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「お嬢様、何だか嬉しそうですね」
「えっ?そうかしら??」
あんな話しの後なのだから、落ち込んでいてもおかしくない筈なのに、落ち込むとは逆になぜか顔がほころんでいる様にも見えるエリシュカ。
「アッティラ様が正直に話して下さった事が嬉しかったから」
「お嬢様、アッティラ様の事がお気に召したのですね」
アッティラの話しでエリシュカが傷ついてないかと気にしていたキンガだったが、エリシュカの嬉しそうな顔を見て、少しからかう様に言ってみると、赤くした頬を両手で隠すように抑えながら恥ずかしそうに微笑むエリシュカ。
「何も隠さず話してくださったのも嬉しかったし、誠実そうなあの態度、素敵でしたわ」
「そうですか」
キンガは、そんなエリシュカを見ながら自然と自分も笑顔になった。
「そうだわ!キンガお願いがあるの」
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大公子の部屋。
寝間着に着替えがら執事のエラクと話しをする。
エラクは、アッティラが小さい頃から仕えている執事だ。
「王女は大公妃になれず、私のような何も持たない者と結婚した事をどう思っただろうか?」
「アッティラ様、またご自分の事ををそのように・・・」
「間違いではないだろう。」
「この大公家は、古い家系の一つ、その血を受け継ぐ方が何をおっるしゃるのですか!」
ヴォールーニ大公国は、小国家ではあるが遡れるルーツは古く、未だに独立を保っている唯一の大公国なのだ。
「はいはい。オールフェンの王女はその隣りに立ち、子供はその後を継ぐはずだったんだぞ。それが、気づいたら領土も持たない位だけ高い人間と結婚させられていたんだ」
”泣かれるか、文句の一つでも覚悟はしていたんだがな”
トントン。
部屋のドアがノックされ、エラクがドアを開ける。
「お休みの所申し訳ありません。大公子妃様より大公子様に言伝を預かってまいりました」
「王女殿から?聞こう」
キンガを部屋に入れるとドアを閉める。
アッティラはどんな苦情を言われるのかと平静を装いながらも身構え話しを聞く事に。
「明日の朝食は七時、夕食は十九時ですので遅れないようにお願いいたします。
との事です」
「?」
「あと、もう一点。
ご病気や特別な用事でもないのに来られないのであれば、わたくしも食事をいたしませんので。食事が無駄にならない事を願います。お休みなさいませ。
以上です。それでは、これで失礼いたします」
キンガは一礼すると部屋から出て行った。
アッティラとエラクは呆気にとられて返事どころか、予想していなかった事に思考が追い付かず、キンガの言った事が頭の中で何度もリピートされる。
”実家に帰ります。とか、大公と直接話しをしたい。とか言い出すのかと思ったのだが?なぜ食事なのだ??一体何を考えている???”
「エラク?」
「なんでしょうか?」
「一体どういう事だと思う?」
「お食事をご一緒にいたしましょう、と言う事ではないかと」
「それはわかったが!どうしたらいいと思う?」
「お食事をご一緒された方がよろしいかと」
「・・・」
「食事が無駄になるのは、他の者が食べればよろしいかと思いますが、大公子妃様が食事を摂られないのは問題かと思われます」
「・・・」
エリシュカに文句の一つでも言われた方がマシだと思うアッティラは下を向き頭を抱えてしまう。