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始まって数時間後、舞踏会会場にヴォールーニ国王カッティラと王妃ホノリアが入場すると、話しをしていた人々は話しを止め、音楽が止まるとともに踊っていた人達も足を止め、一斉に挨拶をする。
そして、国王夫妻は、部屋の中央に立ちダンスを一曲踊ると、玉座に座る。
皆が、国王夫妻の所に行き祝いの言葉を伝えるために行く。
そして、エリシュカの順番になった。
本来ならば夫であるアッティラと一緒なのが常識なのだろうが、アッティラはまだ来ておらず、立場からしていつ来るのかわからないのであまり遅くに挨拶するのも失礼なため、とりあえず一人で挨拶をすることに。
「夫がまだ来ておりませんので、わたくし一人で申し訳ございません。陛下、王妃殿下、本日無事戴冠なされた事お喜び申し上げます」
「ありがとう。先ほどは失礼なことを」
「とんでもございません。わたくしのこそ立場をわきまえず申し訳ございませんでした」
「エリシュカ殿には助けられた。弟と仲良くしてやってくれ」
”仲直りできたみたいでよかったですわ”
カッティラの晴れやかな顔を見て、ついエリシュカもうれしくなり自然と笑顔になる。
王妃は蔑む様にそんな二人を横目で見ていた。
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アッティラが広間にやってくる。
いつも顔の傷を隠すようにしていたテープを外して。
「アッティラ殿」
「ベーラ様」
「様は必要ないよ」
「はい、王女殿はどこにいるのかご存じありませんか?」
「エリシュカ?化粧室に行ってくると言っていたが、まだ戻ってないのか?もしかしたら、他の人の話し相手につかまっているのかもしれないな」
「そうですか」
「見かけたら、探していたと伝えておくよ」
「お願いします」
「あら、来たのね」
「叔母上」
「アリエア叔母上」
「叔母上、王女殿を見ませんでしたか?」
「エリシュカでしたら、化粧室に行く時にすれ違いで出て行ったわよ」
「そうですか」
アッティラは、軽く会釈をするとエリシュカを探しに行ってしまった。
「慌ててどうしたのかしら?」
「早く会いたいのではないですか?」
「そう、なの?」
「詳しくは知りませんが、あの二人いい雰囲気の様な感じがしませんか?」
「そうね、でも不思議ね」
「何がですか?」
「はじめはこんなはずでは無かったのですから。なぜこうなったのか、考えてもよくわからないわ」
「『汝、流れに逆らう事なかれ』ですね」
ベーラの言った言葉は、誰がいつ言ったのかははっきりとしないが、いつの頃からかオールフェン国家に伝わる言葉として定着していた。
「これは必然という事なの?」
「どうでしょうね?そう思っただけですから」
そう笑顔で返すベーラ。
”そういう所、オールフェンの人間らしいわ”
「どうかしましたか?」
「いいえ、どうもしませんよ」
アッティラはエリシュカを探して歩きまわるが、その所々で話し架けられ取り止めのない話しに参加せざるおえなく、笑顔で相槌を打ち退席するタイミングを見計らい離れる事を何度か繰り返し中々探しだせずにいた。
”もしかして、部屋に戻って休んでいるのかもしれないな・・・”
「アッティラ殿」
そんな事を考えながら探しているうちに一回りしてしまったようで、ベーラに声をかけられる。
「ベーラ殿」
「見つからないか」
「はい、もしかしたら部屋に戻ってしまったのではと」
「部屋か・・・」
「見に行ってきます」
アッティラが部屋に入ると、部屋には誰もいなかった。