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「突然お呼び立てして申し訳ない。皆に聞きたい事があったのです」
カッティラは丁寧な言葉で話す。
「お話しとは何でしょうか?」
「ファレンス殿」
「何でしょうか?」
「これを見て何か言う事は?」
カッティラの隣りに控えていた側近が、一枚のスラリとした美人の絵を見せる。
「これは、妹のホノリアですがどうかなさいましたか?」
””えっ!?””
絵の人物を聞きオールフェン国王夫妻、ベーラ、エリシュカ、アッティラは声や顔には出さないものの、先ほど見たホノリア王妃には見えない事に内心驚く。
アエリアの方は、すでに会っていたので驚く事もなく平然としている。
「絵だからと言って嘘を書いていいと思っておられるのか?」
「嘘とは、この時は確か二十歳前後、その頃の妹は今より若く、細見でいたので間違いではありませんよ。そもそも、これは今回の話しで我が国がお渡ししたのではなく、アッティラ王子とのお見合いにとお渡ししたもの。多少変わっているのは当然ではありませんか」
そう、この絵の頃のホノリアは見合いの話しも多く、人と会う事も頻繁だったので見た目も気にしていたのだが、見合いを断り続けるうちにそんな話しも来なくなり、そうすると人と会う機会もへるため、あまり気を使わなくなり、屋敷での不健康な食事、運動不足なども重なり、体重三桁とは行かないまでも絵に描かれた頃の倍以上になってしまった、と言うわけだ。
カッティラが控えの間でげっそりしていたのは、絵の様な人を想像していたため同一人物とは思えない人物が相手で会ったことにショックを受けたため。
「・・・そうか」
会うことも、絵をもらうことも、使者を送り調べることもしなかった自分のミス。
そのことを理解したのか、言葉もないカッティラ。
「次は、叔母上です」
「何ですか?」
「この人間は誰なのですか!?」
カッティラが指をさしたのはエリシュカ。
その瞬間、部屋にいた全員がエリシュカの方を見た。
”わたくし!?”
「オールフェン国王王女エリシュカ様、アッティラ王子の妻ですわよ」
アエリアの言葉に皆が頷いた。
「では、これはどういう事ですか?」
同じ側近がまた一枚の絵を皆に見せる。
その絵に描かれていたのは、まだ幼い感じの残る少しふっくらとした女性。
”あっ、この絵は・・・”
アッティラにはこの絵に見覚えがあった。
「一体何が言いたいのですか?」
「叔母上は、私に違う女性と結婚させようとしたのですか?」
「言っている意味が解りませんね」
「とぼけないでください。この絵とそこにいる女は別人ではないですか?」
カッティラがまたエリシュカを指でさしながら鬼の首を取った様に自身たっぷりに言い放った。
「これは、昔のわたくしですわ」
横からエリシュカが言うと、今度はファレンス、アルビアがエリシュカと絵を交互に見比べ驚く。
「はっ!?何を・・・」
「ですから、その絵は当時のわたくしで間違いありませんわ」
「・・・」
「一年かけて今の体系になりましたの」
「・・・」
”同一人物、なのか・・・”
カッティラも言葉が出ず落胆した。
この二枚の肖像画と本人が本人とはすぐには判断の付かないくらい変わってしまっていたのだから。
だが、どちらの親族も嘘をついているようには見えず、皆と面識のあるアエリアを見ても嘘を言っている様子はない。
”まさか、本人だったとは・・・”
アッティラは、あの時偶然見たエリシュカの時計に描かれた女性の絵と同じ絵が目の前に現れ、あの時エリシュカの言った言葉の意味がようやく理解出来た。
そして、驚きよりもなぜか面白く思えてきてしまい、必死に笑う事を堪える。
「わたくし痩せる事を決意いたしまして、痩せてこの体系を今まで維持しておりますので、それは間違いなくわたくしですわ」
何の返事も返って来ないので、もう一度言うが、返答はない。
カッティラが力なく沈んでいると、先ほどカッティラが部屋に入ってきたドアが開き、ホノリアが勢いよく入って来た。
「話しを聞いていれば、散々な事を言っておられますね!」
「なぜ!?」
部屋に入ってきたのはホノリア王妃、皆が集まる事を聞きつけ気になり隠れて聞き耳を立てていたのだが、我慢できずに入って来たのだった。
「この絵は私ですが、年齢を重ねたくらいで文句を言われる事はありません!」
””年齢を重ねただけ!?””
カッティラはじめ皆がそう思ったが、そんな事を口に出して言う勇気のある人物はこの場にはいなかった。
「私の事を散々言っておられましたけれど、私も聞きたい事があります。陛下は双子なのになぜこんなにも似てないのですか?」
ホノリアも、以前アッティラの絵を見た事があり顔を知っていて、それを想像していたのだが、カッティラの方が背が低く、丸顔、鍛えていない体つき、はっきり言って二人は似ていないのだ。
「王妃様、それは二卵性だからです」
アエリアが代わりに説明をする。
「えっ・・・お兄様なぜ教えてくれなかったのですか!?」
「何も聞かなかっただろう」
「それはそうですが・・・」
ホノリアの疑問を問いただしたのは、半分は本心からの疑問、もう半分は自分の事を言われた事への売り言葉に買い言葉、と言うやつであった。
「どいつもこいつも、いつも、皆・・・みんな・・・」
ホノリアの言葉が、今まで抑えていたカッティラの感情を爆発させてしまう。
「そんなに皆アッティラの方がいいのか!」
突然、カッティラが大声を出したので、一瞬にして部屋は静まり変える。
「「!?」」
「アッティラの方がよければなぜ見合いを断った!私よりアッティラにこの国を任せたいのならなぜそうしなかった!!アッティラも黙ってないで言いたい事があるなら直接言えばいいだろう!!!」
カッティラは今まで抑えていた気持ちを吐き出すように、目に涙を溜めながら叫んだ。
そんなカッティラを見てエリシュカがどこか納得したような、分かったような気がして、背筋を伸ばし小さく深呼吸すると、一歩前に進み出る。
「カッティラ様」
「陛下と呼べ!いくら王女でも、この国の王子の妃である以上目上のものに対しての無礼は許されないぞ!」