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時は戻り、アエリアが帝国に滞在し、ホノリアが結婚を拒否していた時。
”どう説得するのがいいかしら?あんなにもお見合いしていたのに結婚が嫌なんて”
「アエリア様」
「何かしら?」
「いえ・・・」
「とりあえず、会って話しをしたいの」
「妹にアエリア様が直接ですか」
「そうよ」
「妹がもし失礼な事を言うかもしれませんので」
「ファレンス殿」
「はい」
「とっくにこの状況が失礼に当たるのではありませんか?」
「ん゛っ、ごもっともです。申し訳ありません」
ファレンスががっくりと肩を落としうなだれる。
「上に立つものが人前でそんな顔するものではありませんよ」
「すみません」
「弱みを見せるのは、家族だけで十分だとワタクシは思います」
「そうですね」
二人は、小さく笑いあい緊張した雰囲気が和らいだ。
*
アエリアとファレンスがホノリアの部屋にやって来た。
ホノリアも皇女、礼儀作法はきちんと習っているため、アエリアに対しきちんと挨拶をし、それを見たファレンスは自分の妹ではあるが、少々驚いた。
「お祝いの品をお持ちしたのですが、中々お渡し出来ずにいましたもので失礼とは思いましたが、こちらから参らせていただきました」
「体調がすぐれずお会いできず申し訳ありませんでした」
「今、お加減はいかがですか?」
「まだ具合がよくなくて」
「そうですか。けれど、お食事やおやつなどは食べられているので、回復傾向ですわね」
「そうですね」
”ふんっ!なんでいきなり来るのよ!!お兄様もなぜ止めてくださらないの”
顔は笑いながら、鋭い目で兄であるファレンスを睨み、ファレンスの方は気づかないフリをする。
”お兄様がそのつもりならいいわ”
「私、この結婚辞めることにいたしましたの、ですから、せっかくいらして下さったのに申し訳ありませんが受け取る事はできません」
はっきりと言われファレンスは顔面蒼白、アエリアはと言うと、顔色一つ変えず。
「もちろん、陛下にはご承諾いただいている事です」
ファレンスの顔色がさらに悪くなる。
「そうでしたか」
アエリアは笑顔で言うと、ファレンスは驚いた顔をアエリアに向け、ホノリアの方は焦った顔をするだろうと思っていたためこちらも驚く。
「あの、ご存じでしたか?」
「いいえ」
当然知っていたので、何食わぬ顔で嘘をつくアエリア。
「私がカッティラ殿と結婚しなくても問題ないと?」
「いいえ、結婚の発表は致しましたし、戴冠の儀に関しましても伴侶と一緒にという事は公然の事実となっておりますので、訂正するのが大変ですわね」
「・・・」
「・・・」
「それと、個人的に思っていた事がありましたのですけれど、ホノリア様が嫁がれないのであれば不可能になるので残念ではあります」
「それは、なんなのですか?」
”そんな話ししなかったぞ、しかもホノリアが食いついた”
「いいのですよ、そんな夢物語なんて・・・」
「夢物語?」
「はい、ホノリア様の持参金(土地)が大公国の一部になれば王国に昇格可能かと思っておりましたのよ。そうすれば、初代王妃、そして王国昇格の立役者はホノリア様、名前は後世にまで残りましょう」
”私のおかげで王国に!しかも、私の偉業として歴史に名を残すの!!”
冷静なフリをしながらも、頭の中ではアエリアの言葉が駆け巡る。
普通であれば、国のトップの妃になっても生きている間に贅沢な生活は出来るだろうが、後世に名を残し称えられる事はほとんどない。
そう考えると、アエリアの話しはホノリアの欲をくすぐる。
アエリアの後ろで黙って聞いていたファレンスは、驚きを隠せずにいるが何をどう言っていいのか解らず言葉が出ない。
「お兄様」
「なんだ?」
「アエリア様のお話しは本当の事ですか?」
「それは・・・」
”確かに、ヴォールーニと持参金を合わせれば、王国として申し分ない領土になる、が・・・”
「広さとしては問題ないはずだ。だが、周辺諸国の賛同が必要だ」
「それはどうするつもりですか?」
「特に問題はないと思いますわよ」
「なぜですか?」
「帝国は陛下が賛同してくださるでしょうし、オールフェンはワタクシが話しをいたします」
「ヴォールーニに隣接した他の国はどうするのですか?」
「プロト王国はカッティラ大公の叔父ですよ、ノゴド公国は皇帝妃様のご実家ですよ」
「・・・王妃になれるのであれば、結婚いたします」