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次の日
一行は、シャレ領を出発し首都へと向かう。
到着予定は夕方。
「キンガ」
「何でしょうか?」
「今日よね」
「何がですか?」
「大公と皇女様の結婚式」
「そうですね」
今日は、ヴォールーニ国の喪が明けた日。
そして、大公の結婚式。
結婚式は、喪が明けたばかりという事もあり質素に行うとして、ヴォールーニ大公の方は本人と側近数名、帝国側は、本人と戴冠の儀に出席予定の皇帝夫妻で執り行われる予定なので、なぜか実の弟であるアッティラの参列はない。
「お嬢様?」
「この結婚に興味はないから別にどうでもいいの」
「・・・はぁ」
”どうでもいいのですか?それではなぜその様なお顔を?”
エリシュカが、何か考えこみ今にもため息をつきそうな顔をしているのを見ると、どうしても気になってしまう。
***
大公家宮殿は、大公家の一族の住居、玉座の間、謁見の間、オペラハウス、大広間などが屋敷にあり、その隣りに離宮が建てられ客人を泊める建物、その二つの建物を繋ぐ回廊となっている。
今回、エリシュカとアッティラは離宮の方に泊まる事となった。
部屋に案内されるとアッティラはすぐに部屋を出ていき、エリシュカは一休み。
「やっぱり、そうですわよね」
エリシュカが小さくつぶやく。
”部屋はひとつですわよね・・・”
そう、喪は明けた。
すなわち、アッティラとエリシュカは同じ部屋に泊まる。しかも部屋のベッドはひとつ。
「・・・じょうさま、お嬢様」
「どうしたのキンガ?」
椅子に座り、ボーっとしていたエリシュカをキンガが予び、何度目かでやっとエリシュカの耳に届き、キンガの方を見る。
「オールフェン国王夫妻がご到着なされたようです」
「父上と母上が!」
「はい」
*
エリシュカはキンガに案内され両親の部屋に向かう。
部屋に入ると、両親、ベーラ、そしてアッティラがいた。
「アッティラ様!なぜここに?」
「エリシュカ!元気そうね」
「母上!」
二人が久しぶりの再会に抱き合う。
男性陣は、そんな二人を見て優しく微笑みながら見つめる。
「それにしても、なぜお兄様もいらっしゃらるの?」
「私は、舞踏会にだけ出席だよ」
「えっ?」
「妹が壁の花になった時のためにね」
「まぁヒドイですわ!」
”そんな心配はいらなそうだけれど”
ベーラは茶化すように言うと、エリシュカは怒りながらベーラを睨むが、ベーラの方はそんなエリシュカも可愛いのか笑うとつられてエリシュカの顔もほころぶ。
「そうそう、彼が部屋に案内してくれて我々に挨拶をしてくれたんだよ」
「偶然近くにおりましたので」
(本当は、オールフェン王国一行の到着の情報を収集しつつ到着を待っていたのだったりする)
「私はこれで失礼します」
「アッティラ様もう行かれるのですか?」
「久々にゆっくりしてください」
「はい」
「それでは」
アッティラは軽く会釈をする。
「また後で、義弟殿」
ベーラの言葉に一瞬反応するが、そのまま部屋を出て行った。