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ルエは、必死に馬を落ち着かせようとするが中々大人しくならない。
そうこうしているうちに馬が大きく跳ねるような体制になり、驚いたルエが体制を崩した瞬間手綱を引っ張ってしまい馬が柵を超えて走って行ってしまった。
「ルエ様!・・・追いかけて!!」
馬にお願いするように言うと、エリシュカの乗った馬は柵を飛び越えルエの馬を追いかけ、全力で走る。
”暴れて制御の利かない馬は早いですわね!馬から落ちなければいいけれど”
エリシュカは、追いかけながらルエが落馬してケガなどしないか心配しながらも見失わない様に全力で走らせる。
牧場の柵を超えたとは言え、シャレ家の敷地内で場外まで行くことはあり得ないので少しは安心なのだが、その敷地が広い。池や森林などもあるため見失うとすぐには見つけられない可能性もある。
「大丈夫ですか!」
森林に入る手前で、ルエが馬から落とされてのか起き上がろうとしている所にエリシュカがやってきて、急いで馬から降りルエに手を貸し、洋服に付いた落ち葉や土を払うのを手伝う。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「本当に?」
「えぇ、林の中に入ろうとしたので思い切り手綱を引いたら落とされてしまいました」
「体など打ってはいませんか?」
「大丈夫です。馬から落ちる時にきちんと受け身を取りましたから」
「そうですの」
「小さい頃から落ちる事に慣れていたおかげですわね」
るえが笑いながら冗談っぽく言うと、エリシュカも少し安心した様に笑顔になった。
「馬は大丈夫かしら?」
「たぶん大丈夫かと思います。時々逃げ出してはほとんどの場合戻って来るので」
「そうですか。それでは戻りましょうか」
「はい」
エリシュカの乗っていた馬にルエが馬具に片足をかける様に乗り、その後ろにエリシュカが跨って乗ると、走って来た道をゆっくりと歩くスピードで帰る。
「申し訳ありませんエリシュカ様」
「いいのですよ。けれど、意中の殿方でなく相手がわたくしですけれど」
「そんな事!」
「ごめんなさい。少しからかってしまいましたわ」
「・・・」
エリシュカはからかう感じで言ったことに、ルエは顔を赤くしながらあたふた。
「言いたくなければ答えなくてもいいのですが、どなたか気になる方がいらっしゃるのですか?」
「はい。けれど、その方自身は貴族ではなく、私には縁談が来るようになり、年齢も年齢ですし断る事も難しくなってまいりまして」
”確かこの国は、基本的に貴賤結婚には厳しかったわね。それが貴族ではないとなると・・・”
貴族の結婚に対する考え方はその国によって全く違う。
オールフェン王国は、かなり自由で王族が平民と結婚する事もあり、基本両親や親族の反対がなければ許される。
ヴォールーニ大公国は、大公家は基本的に君主の一族、元君主の家系、初代ヴォールーニ公の時代からの臣下、貴族は貴族同士が基本。
この様な事から、ヴォールーニ大公国の大公家では稀にではあるが結婚そのものが難しくなる場合もある。
「それで、エリシュカ様は全く知らない相手とでも幸せになれると思いますか?」
”それは、わたくしと事情が違いすぎますわよ・・・”
「それは、自分の気持ちと相手にもよるので何とも・・・」
「そうですよね」
”貴族をおやめになればよろしいのでは?なんて軽口言えませんし、オールフェンでしたら問題ないのに・・・でもご両親の反対に合う可能性が、駆け落ち!それならばもっと早くに実行しているはず?”
「一度お兄様にご相談されてはいかがですか?」
「兄に?そんな事いけません!」
”ん!?”
俯いていたルエが、エリシュカを見て慌てたように否定。
「あの、まさかその方はご結婚されているのですか?」
「いいえ、独身です」
ルエの慌てぶりに既婚者かと思い内心ビクビクしながら聞いたが、独身と言うことで一安心する。
「ルエー!エリシュカ様ー!」
そんな話しをしていると、遠くで二人を探しながら名前を呼ぶ声がし、二人が声の方を見るとアッティラ様とルーア、シャレ家の使用人達の姿が見えた。