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馬が放牧されている場所にやって来た一行。
元々シャレ家は馬の畜産業をしており、その稼業を今でも主な収入源としているのだ。
シャレ領の馬は世界的にも有名で、各国の王侯貴族にもたくさんの愛好家がいるくらい、その一人がエリシュカ自身でシャレ侯爵家からの招待をとても楽しみにしていた。
「すごいですわね!」
放牧地にゆったりとくつろぐ馬達を見て、目をキラキラさせながら喜ぶエリシュカ。
「エリシュカ様は、本当に馬がお好きなのですね」
「はい、オールフェンにいた時はシャレ産の馬を乗っておりましたの。数頭の馬を乗りましたがシャレ産の馬がとても乗りやすくてずっと愛用っしておりました。ですから、ここに来る事ができてとてもうれしいですわ!」
「そう言っていただけるととても嬉しいです。よろしければお乗りになりませんか?」
「いいのですかルギラ様!」
「もちろんです」
「ありがとうございます!」
エリシュカ達は馬小屋に行き、好きな馬を選ぶと馬具を取り付けてもらう。
馬にはルエも乗りたいという事で、二人が乗ることに。
男性陣とルギラは、近くに建てられた屋敷で休むことに。
「エリシュカ様、ルエ、屋敷が見えない場所には行かない様に、それと馬達を刺激しない様にしてください」
「はい」
「わかっていますわお兄様」
「王女殿、ルエ殿気を付けて」
「それでは、行ってまいりますわ」
「行ってきます」
”馬に乗せてもらえるんだったらもう少しラフな格好にしておけばよかった”
エリシュカが馬に乗る時には、お呼ばれする様の服装でも見た目にはわからないが割と楽な格好を選ぶことが多いのだが、今回はそんな服装ではなかった。
「エリシュカ様あのあたりまで行きません事」
「えぇ」
二人はスピードを走らせる。
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屋敷に残った人達は、二階のバルコニーから二人の様子を見ながらお茶の時間に擦る事に。
この場所からは、馬を放牧している範囲の柵が見えるようになっており、馬の監視の場所も兼ねているのだ。
「エリシュカ様は本当に馬に乗り慣れているのですね」
「その様ですね。馬に乗って走っているのを見た事がなくて・・・」
「そうでしたか。こちらに来て間もないですからな、よろしければ、いつでも馬「に乗りに来てください」
「ありがとうございます」
「父上、それだけのために来るのは遠すぎますよ」
「そうだな」
「それにしても、エリシュカ様は明るくて本当にお綺麗ですわね。アッティラ様ととてもお似合いですわ」
「ありがとうございます。けれど、私にはもったいないくらいの方です」
アッティラの顔が一瞬曇る。
「そんな事ありませんよ。カッティラ陛下よりお似合いですわよ」
ルギラは思わず口に出してしまった事を後悔し口を押えたが、遅かった。周りの空気が凍りつき全員が沈黙。
時が止まった様な一瞬の時間、だがそこにいた皆にとってはその一瞬は長く感じ、ルギラにとってはもっと長く感じていた。
「兄との方が・・・」
「俺も母上と同じくそう思う。エリシュカ様を見ていれば楽しそうで満足した顔をしている様に見えるからな」
アッティラの言葉を遮る様にルーアが言葉を被せて言った。
そんな空気の中、遠くで馬の声がしたのでそちらを見ると、ルエの馬が柵を超えて走って行きその後をエリシュカが追いかけて行く姿が見えた。
「馬が暴走したのか!?」
「まさか?」