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「エリシュカ王女の監視がほとんど無くなったみたいだ」
ルーアは、騎士団のアッティラの部屋に入って来ると嬉しそうに言った。
「そうか、今更なぜ?」
「オールフェン王家が正式に、カッティラ大公とホノリア皇女の婚約の祝辞の手紙を送ったらしい。おそらく、エリシュカ王女のためだろうがな」
「そうか、オールフェン王家が」
”確かに、王女のために送ったのだろうな”
「はぁ・・・」
送ったという事は、今回の戴冠の儀及び舞踏会には出席するのは確実。
アッティラはエリシュカの婿として王家の人達に会うことになる事が決定になり、重いため息をつく。
「いい加減に、自分の状況を認めたらどうなんだ?」
”本当に嫌だったら、方法はいくらでもあるのに・・・思い込みと気持ちが頭の中で対立してるんだよな”
「認めるも何も、初めから決定権は存在していないよ」
”叔母上の手紙で、王家が反対をしていないとは思っていたが、賛成されているとも思えないし”
「ところでアッティラ、両親が二人に会いたがっっているんだが」
「はっ?」
「結婚したのにパーティーは開けないにしても、食事会すら開いてないだろう?」
「あ、あぁ、しかし・・・」
「宮殿に向かう途中にでも立ち寄ってほしいらしい。王女の監視が厳しいままだったら無理だっただろうが、今の状態なら問題ないと思わないか?」
”シャレ家の人達には良くしてもらってるし、無碍には出来ないか・・・”
「わかった。道中泊めてもらうという事でなら。だが、王女がいいと言ったらな」
「わかった。両親も喜ぶよ」
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「と、言うわけでどうだろうか?」
その日、帰るとルーアの家に行く事ほ話しをエリシュカにしてみた。
「もちろん、気を使わなくていいので嫌ならそう言って貰って構いません」
「是非お伺いいたしたいですわ!」
「そうですか」
「はい!楽しみにしております」
お世辞ではなく、本当に喜んでいる様子のエリシュカになぜそんなに喜んでいるのか疑問に思う.
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戴冠の儀と舞踏会への出席のため首都に向かうが、シャレ侯爵領に立ち寄る事になったため、予定より早くに出発することに。
「はぁ・・・」
「お嬢様どうかなさいましたか?」
「アッティラ様はなぜ馬車ではなく馬に乗っているの?そんなにわたくしと二人きりがお嫌なのかしら?」
「そうではないと思いますよ」
”食事の雰囲気から見ても、嫌と言うより話しが弾まず無言の空間になりそうな気はしますが”
「それじゃなぜなの?」
「それは・・・まだ喪に服する時期だからではないでしょうか?」
キンガは、思いつかないので適当に答える。
「そっか、それもそうね」
”納得した!それは馬車に一緒に乗らない理由にはならないでしょうお嬢様!!”
その場を収めるために無理やりな理由を言ったが、それを信じて納得してしまうエリシュカに心の中で一人ツッコんでしまった。
「それにしても、こんなにお天気がいいならわたくしもアッティラ様と一緒に馬にすればよかったわ」
「お嬢様それは無理があるかと・・・」
「なぜ?道中迷惑をかけないくらいには乗れるわ」
「それは存じておりますが、この場合女性は馬車と言う常識がありますので」
「そうね、けれどそれはそれでつまらないわよね」
「お嬢様は、馬に乗るのがお好きですからね」
「だから、シャレ領に行くのがとても楽しみなの」
*
馬車の先頭を馬で先導するのは、アッティラとルーア。
「なんで馬に乗ってるんだ?」
予想通りとは言えため息をつく様な言い方で呆れながら、横にいるアッティラの方に顔を向ける。
「なぜ、馬車に乗る必要がある?」
”えっ、質問に質問で返された”
「初めてのお出かけだからだろう」
「では、王女が危ない目に合わない様に外から見張っていないといけないだろう」
「それは、俺達護衛の役目だ。まさか、このメンバーでは役不足だとでもいいたいのか?」
ルーアの言葉に近くの護衛達が一斉にアッティラを睨むように見ると、その視線にアッティラは息をのんだ。
アッティラの率いる隊は大公国でも一目置かれるくらい優秀な人材が揃っている部隊なのだ。
「そんな訳はない」
その言葉に、全員が視線をアッティラから進行方向へと戻す。
「だったら、一緒に馬車に乗らないのはどうして?」
「馬」に乗りたいからだ。話しは終わりだ」