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アエリアは、馬車に乗り帝国に向かう。
その理由は、現大公(甥)との婚約成立の祝いの品を自ら届けるために。
「祝ってなどいないのに、祝いの品物を渡すなんてバカバカしい!」
「アエリア様、それはそうかもしれませんが、大公陛下はご自身の甥なのですからその様なこと・・・」
「わかっているわ。単なる甥の結婚と言うだけだったらもちろん祝うわよ!けれど今回は全くもって祝いたくもないわ」
「では、代理の人間に届けてもらえばよろしかったのではないでしょうか?」
「そんな事したら何もわからないじゃないの」
「?」
「ギボンの話しで大まかな事は解ったけれど、もう少し知らなければいけないわ」
「はい」
「まぁ、ワタクシ自ら出向けば相手も驚くでしょうし」
「つまり、いやがらせで自ら届けられるのですね」
「そんなにはっきりと言葉にするものではありませんよ」
「失礼いたしました」
馬車の中で斜め前に座り、アエリアの秘書兼メイドは少々顔を引きつらせながら帝国領土に入る前まで話しを聞くこととなった。
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オールフェン王弟妃の乗った馬車が帝国領内に入るために検問を担当した担当官から宮殿に急ぎの伝言が届けられ、その伝言を受け取った官吏が慌てて皇帝の元に内容を伝えるために陛下のいる部屋にやって来た。
「陛下、オールフェン王弟妃からの祝いの品の馬車が領内に入ったのですが、王帝妃様ご本人が直接来られたようです」
「はぁ!?代理の者が来たのではないのか?」
「その様です」
「急ぎ迎える準備を」
「はい」
”まさか本人自ら来るとは・・・”
ホノリアの結婚の祝いの品は、代理の人間が来るものばかりだと思っていた宮殿内の全員が慌てて出迎えの準備を行うことになった。
前皇帝、皇帝妃、皇子、その妃に急いで伝えられると、前皇帝は従兄妹と久しぶりに会えることに嬉しそうにし、皇帝妃、皇子、皇子妃達は衣装や身に着ける物を変え、皇帝一家は謁見の間での対応を予定していたのを、正面玄関外での出迎えに変更、泊まるための部屋の準備、食事などなど王弟妃が到着するまでの短時間で終わらせなければならず一瞬にして屋敷中が大変な騒ぎになった。
アエリアの乗った馬車が王宮の門を潜り、正面玄関前で馬車が止まる。
馬車の扉が外から開かれると、前皇帝を先頭にホノリア以外の皇帝一家が立ち並んでおり、前皇帝自らアエリアに手を差し出すと、その手を取ると馬車から降りる。
”時間がそんなになかったはずだけれど、さすがだわ。それにしても、ワタクシの出迎えにしては大げさね”
本来ならば、王弟妃、公女、前皇帝の従兄妹、どの肩書を使おうと直径の皇帝一家がほぼ全員外で出迎えるなどあり得ないもてなしに、少々驚くと同時に後ろめたさから来るものがある事を感じるアエリア。
”ワタクシが開口一番文句でも言うと思ったのかしら?”
「ようこそ従兄妹殿」
「お久しぶりですわ陛下」
「おいおい、もう陛下ではないよ」
「そうでしたわね、カロサ様。まだお若いのに退くなんて驚いたわ」
「いや、上の孫も十になったのでそろそろゆっくりしようかと思ってね」
「そうでしたの」
「ホノリアも嫁ぐし、これで本当に引退だ」
ほのぼのと話しをする二人に対し緊張しながら立つ面々に、カロサの一言でさらに空気が凍る。
”なんでアエリア様がわざわざ来るんだよ”
”あの人昔からとっつきにくいんだよな。廊下を走っただけで怒られた記憶しかないし”
皇子達は、アエリアとの昔の思い出を思い出すと眉間に皺が寄りながら情けない顔になっていった。
”さすが、いつも凛とされておられるわ”
皇帝妃アルビアは、背筋がきちんと伸び姿勢がよく、所作の美しい姿を常々参考にしたいと思っていたので、今回の事情は知っているがアエリアに会えると言う事の方が嬉しく思ってしまった。
”あれがアエリア様、お噂通りお若い時は相当の美人だったのが解りますわ”
”エリシュカ様には申し訳ないけど、ここでずーとホノリア様と一緒なんてありえないわ!アエリア様も血を分けた甥の方に味方なさるはずよね!きっと・・・あんなに笑顔なんですもの・・・”
皇子妃達は、自分達が策をめぐらせたわけではないので、どこか楽観的にアエリアに対して思う。
「父上アエリア妃お話しは後にして、旅の疲れもあるでしょうし中へ」
「まぁ、つい懐かしくて。申し訳ありませんファレンス陛下」
「いいえ。こちらこそお話しの途中に申し訳ありませんでした」
アエリアの穏やかな顔の瞳だけが笑っていない事に、内心冷や汗もののファレンス。