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帝国
「お兄さま!なんでそんな勝手な事をしたのですか!」
「お前のためだ」
「どこがですか」
「その歳で嫁ぎ先のない皇女がどこにいる?しかも、最近は結婚の申し込みさえ来なくなってただろう」
「それは、それは見合うだけの相手がいないだけです」
「このまま一生一人か王族でない者の所に嫁ぐか」
「お兄さま、この者は王ではなく大公ですよ、格下すぎよ!!」
「だが国の統治者だ!王族の次男、三男の方がいいか?それとも、歳の離れた王の後妻で子供や孫がいる方がいいか?」
「全部嫌!!!」
「父上は娘の結婚が決まって喜んでいたぞ。しかも同世代の初婚、位としても申し分ない。何が問題だ?」
「格下すぎる」
「過去に戻れるなら王と結婚できるかもな」
「無茶苦茶すぎます」
外まで聞こえるような大声で言い合いをしていると、部屋に皇帝の弟である三男が部屋に慌てた様子で入って来る。
「兄上大変です!」
「どうした?」
「明日オールフェン王弟妃からカッティラ大公と姉上の結婚祝いが届くと連絡がありました」
「オールフェン王弟妃から!?」
”やはり、国王は怒っているのか・・・当たり前だよな、もし自分の娘がこんな目に遭わされたらと思うと。何も言ってこないのも不気味だが、カッティラ殿が話しをうまくしているのかもしれないし、明日になれば少しは状況が解るかもしれん”
内心やった事の大きさに後悔しながらも、この我儘放題の妹が宮殿から居なくなるストレスの無い生活を想像するだけでストレスがなくなる解放感には代えがたいものがあるため、なるべく破断にはしたくないのが本音なのだ。
「はい」
「国王ではなく王弟妃からなの?」
「ホノリア、王弟妃はカッティラ大公の叔母だぞ」
「知ってるわよ」
「それに、一族ともつながりがあるんだぞ」
「それも知ってるわ!」
ホノリアはその事を聞いても不満そうな顔は変わらない。
「わかった。ホノリア、明日祝いの品を受け取るかは自分で決めろ。ただし、これを断れば二度と縁談の世話はしない。ここに一生住むのは構わないが、規律や決まり事を曲げての我儘は許さないからな」
「そんな!」
「決定だ」
つまり、今までのような公式の場での並び順や、すれ違う時に道を譲る事など全てが継承順にしなければいけなくなる、と言う事は、弟の妃より下になる。
ホノリアは、そんな光景を頭に浮かべると、想像するに耐えない光景に身震いし体から血の気が引いていくのが解った。
*
「お父様!」
部屋のドアもノックせず勢いよく部屋に入って来たホノリアに怒るどころか優しく目を細めながらやさしく微笑む前皇帝。
「どうした?」
「なぜ結婚を許したのですか!?」
「おれはいきなりだな。まぁ、座りなさい」
自分の座っていたソファの隣りに座るように促されたホノリアは怒りながらもとりあえず言われたとおりに座る。
「なぜですか?」
「ホノリアも嫁ぐ歳だろう?」
「それはそうですが、相手は自分で決めたいのです」
「誰か相手がいるのか?」
「それは、今はまだいませんが・・・」
「この歳まで見つける事が出来なかったのだろう?」
「はい」
「では、このカッティラ大公が運命の相手かもしれんぞ」
「お父様!」
「まぁまぁ、カッティラ殿とは親戚関係にあるから釣り合いは取れている。それに、オールフェン王女との婚約を反故にしてまでお前がいいと言ってくれたんだぞ」
「でも・・・」
「ホノリア、お前が本当に嫌なら結婚なんてしないでここに居ていいんだよ」
「お父様・・・」
前皇帝には、カッティラがホノリアを選んだ(ある意味本当)、と言ういい話として伝えられており、やっと娘が結婚する、しかも歳の近い相手と言う事で伝えに来た現皇帝である息子に飛びつくように抱きしめて喜んだのだ。
その話しは、すぐに宮殿中の噂になった。
もちろん、ホノリアもその話しを耳にしているため強くは言えない所があり、今までの様に勢いで破断にはできない所がある。それよりも、先ほど兄である皇帝に釘を刺された言葉が頭をよぎる。
”あんな元々王族の出ではない者達の後ろを歩くなんて、考えただけでも蕁麻疹が出てきそうだわ!”